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熊野「誰の入れ知恵だ。言わなきゃ警察に来てもらうぞ」 貴子「ひいぃ、お許しを。主人です」 敷徳「村長が?」 貴子「はい。敷徳たちの捜査を辞めさせるために事件の結末を考えた、お前が行って来いと」 二夫「村長も間抜けだな。ボロが出まくりだ」 貴子は逃げるように事務所を去った。
敷徳「ところで加奈さん。隔離は初耳だった」 加奈「父が婿養子として旅館に来て、最初は普通の夫婦だったそうです。子供が出来、女の子と知ってから母は豹変し父と私を離れに隔離し、旅館に入れなくなりました」 茜「食事はどうしてたの?」 加奈「離れの前に畑があるので自給自足。裏にある山で動物を仕留めたりも」 熊野「ベーコンは家族みんなで食べてたよな」 加奈「何故か、その日だけ母は私と父を旅館に招き入れたのです。父は翌朝行方不明に」 熊野「数日後に血塗られた木の前で死亡か」
加奈「その後、母は私を旅館の従業員として雇いました」 敷徳「隔離しなくなった理由が分からんな」 加奈「理由を聞いたところ、子供じゃなくなったから、でした」 二夫「女の子だと隔離しなければならんの?」 敷徳「女将さんに聞いてみなければ」 敷徳は旅館に電話した。
女将「あら、敷徳さん」 敷徳は電話した経緯を説明した。 女将「加奈はそちらに居るのね。隔離は事実です。理由は伝染病です」 敷徳「伝染病とは?」 女将「シクトク病です。村が排他的なのは理由があります。余所者と結婚して出来た女の子はシクトク病になる。そして伝染るのは決まって産んだ母だけ。何故か成人すると治るのです」 敷徳「どんな症状なんです?」
女将「シクトク踊りに狂うのです」 電話越しに聞いていた加奈はハッとした! 加奈「そういえば、私、子供の頃無意識のうちに踊ってばかりいた」 女将「私が感染すれば旅館は潰れてしまいます。夫も隔離したのは加奈の面倒を見てもらうため。実際は二人でたまに会ってました」
女将「シクトク病の怖い所は感染した母の方は死ぬまで治らない所です。加奈が成人するまで会う事は出来ませんでした」 敷徳「ベーコンの時、一緒に食事したのは?」 女将「加奈が成人し、感染の心配が消えたからです。これからは家族3人で暮らせると思った矢先に・・・」
敷徳「事情は分かりました。しかし、腑に落ちない事があります。村ぐるみで事件の捜査を妨害する事です。女将は夫の死の真相を知りたくないのですか?」 女将「さあ、何の事でしょうか?忙しいので失礼します💦」 女将は電話を切った。
熊野「女将は加奈さんに、戻って来いとも言わなかったか。」 敷徳「自分の旦那の死の真相を知りたくないのも気になりますが…加奈さん大丈夫ですか?」 加奈「はい大丈夫です、母には慣れているのでもう…」 加奈の表情はどこか虚ろで、暗くなっていた。 二夫「あの、皆さんちょっとよろしいでしょうか? こんな事、あまり言いたくないのですが」 敷徳「二夫さん、どうしたんですか…」 二夫「村から来た貴子さんの行動って、兄の捜査の視線を外すように感じられたんです。 あの加奈さん…あなたは本当に僕らの味方ですか?」
加奈「私は村のスパイではありません。隔離されていたので愛着は薄いです。結婚したら出ていくと思います。村に罪があるなら償うべきです。父の死の真相を知りたい一心で事務所に来ました!」 (編集済)
二夫「加奈さんの決意の強さを感じました。疑って悪かったm(_ _)m」 加奈「いいえ。当然の疑問ですから」 敷徳「僕らの方向性は間違ってない。一夫の握った村の秘密を暴くしかない」 熊野「そろそろ原田君が来るんじゃないか」             
原田が急いで、事務所に来た。 原田「いやいや本当にごめん、話がかなり長引いてしまって。」 茜「大丈夫よ、スマホからこっちの様子は見てくれた?」 原田「ああ見たよ、それにしてもシクトク病か。」 原田は伝染病について、何か腑に落ちない表情を見せていた。 敷徳「原田さん、どうかしたんですか?」 原田「いや…昔これと似たような話を、遠征先の村のお婆さんが話していたんだよ。 ただその村も踊り狂うんだけど、感染の対象者は双子の母親なんだよね。」
敷徳「別の村とはいえ、似たような症例、無視できないな」 熊野「すると女将は双子かもしれんな」 加奈「旅館を掃除してる時に母の幼い頃の写真を見た事があります」 原田「他に誰か写ってたかい?」
加奈「幼い頃の母と、男の子2人と女の子1人の4人組の写真でした。 3人とも母と顔は似てなかったのですが、ただ…」 二夫「何かあったんですか?」 加奈「母に目撃された際、母はその写真を取った後にすぐ写真に向かって、 ごめんなさいと連呼しながら、うずくまって泣き出したんです。」(編集済)
熊野「兄弟はもう一人いて、それが女将と双子なのかもな」 原田「病気や事故で亡くなったとか〜」 茜「謝る理由がわからないよ。まだ幼い女将が何か仕出かした訳?」 二夫「女将が風邪引いて、それが移って重症化したとか」 敷徳「どっちにしろ予想に過ぎない。本人に聞いてみよう」 敷徳は再び女将に電話した。
女将「私が双子ですって?」 敷徳「感染は双子の母説が出まして」 女将「確かに生き別れた双子の姉がおります」 敷徳「生き別れた?」 女将「生後すぐに口減らしのために養子に出されました。兄弟が多く貧しかったので。ずっと罪悪感がありました。私の身代わりにと」 敷徳「子供に責任はないですよ。お姉さんとはその後会った事は?」 女将「ありません。会いたいですが既に両親は他界し、残りの兄弟も若くして病死してますので手掛かりもありません」
敷徳「お姉さんの名前は?」 女将「分かりません。生後すぐに別れたので両親は名前を付けてません。養子先の人が付けたでしょうね」 敷徳「養子先の名前は?」 女将「分かりません。分かれば会えてますよ」 敷徳「確かにそうですね。失礼しました」 敷徳は電話を切った。
シクトク村の山の反対側に鏡合わせのような村、クトクシ村があった・・・ クトクシ村にたった一軒の宿の女将は最近「今日あそこで買い物してたでしょー」など身に覚えの無いことを言われることがあった
女将である紗矢は、いつもの事と思いつつ旅館の開業の準備を始めていた。 クトクシ村の旅館はシクトク村とは対照的に、昔スポーツの合宿地にも選ばれたほどの良質な旅館であった。 仲居「女将、あの木って名前はなんて言うんですか?」 紗矢「あなたはこの村の出身じゃないから、初めて見るわよね。 あの木の名前は「紅都琥志(クトクシ)の大樹」、この村の名物よ。 あと本日仕入れた、川魚の名前は…」 紗矢は落ち着いた口調で丁寧に優しく、新人の仲居に説明している。(編集済)
そこに短髪の威勢のいい若者が現れた 雷太「おふくろ、今日の魚はこれか?」 紗矢「ええ雷太。早く持っていきなさい」 雷太「ヨイコラショ」 雷太は紗矢の一人息子で旅館の板前をしている 仲居「雷太君がいるから安心ですね」 紗矢「いずれ、あの子に継がせるわ。早くお嫁さんが来たらいいんだけど」
その頃、シクトク村では・・・ 仲居「何ですか、この置物、かわいい♥」 女将「この前、ドライブして立ち寄った村のお土産よ」 それは紅都琥志の大樹の置物だった。 仲居「何だか血塗られた木にそっくりですね」 女将「その村にも同じような木があったの」
再びクトクシ村・・・ 雷太「今日の仕事終わった!なぁおふくろ、明日休みだからドライブ行ってきていいか?」 女将「別にいいわよ。何かお土産お願いね」 雷太「へいへい」 そして翌朝・・・ 雷太「この道行った事無かったなぁ。行ってみっか」 見知らぬ道を進むと小さな集落が見えた。 雷太「おっ村があるな。腹減ったし丁度いい」 雷太は車を降りると村を散策し始めた。
雷太「何か紅い木があるな。紅都琥志の大樹みたいだ」 雷太は木の周りをウロウロした。 すると、側にある旅館の戸が開いた。 女将「シクトクマートで買い物買い物と」 雷太「あ!!!」
女将「誰なの人の顔見て、声なんか出して。」 雷太「(あれ、違う人か?似ていると思ったけど…)あの、この辺に食べるお店はありますか?」 女将「食べるお店って、あなたはどこから来たのかしら?」 女将はどこか警戒しながらも、雷太に訪ねた。 雷太「俺は、紅琥村から来た者です。」 紅琥村とは、現在のクトクシ村の名称である。(編集済)
女将「なんですって!そんなわけないわ!だってあの村は・・・・・いいえ、なんでもないんですのよ。お気になさらないで。ホホホ」
雷太は旅館の玄関に、紅都琥志の大樹の置物がある事に気付いた。 雷太「おばさん、うちの村に来てるよ。その置物、村の土産屋のだもん」 女将「聞いた事の無い村だから戸惑ったのよ。それより私を見て驚いたのは何故?」 雷太「俺のおふくろに似てるんだ。おふくろも旅館やってんだけど」
女将「他人の空似なんてよくあるじゃない?」 雷太「いや、そんなもんじゃない。双子と言っても誰も否定しないよ」 女将「まさか、そんな・・ねぇ食事は私が奢るから、お母さんに会わせて」 雷太「いいぜ、車で連れてったる」 #ここからは、シクトク女将とクトクシ女将を区別するためにシク女将、クト女将とします。  
やがて紅琥村についた。 シク女将「久しぶりね」 雷太「土産買った時、旅館は寄らなかった?」 シク女将「ええ、泊まる気は無かったから」 旅館の前で紗矢が掃き掃除をしていた。 雷太「おーい、おふくろ」 紗矢「あら、早かったのね」 紗矢が息子の方を振り返ると・・・
シク女将「・・・」 紗矢「・・・」 二人は目を合わせたまま動かない。 シク女将「姉さん😢」 紗矢「自分が養子で双子だと聞いたのは成人した時。育ての親には感謝しかない。でも実の家族にもずっと会いたいと思ってた」 二人は抱き合い涙を流し続けた。 (編集済)
その頃、敷徳探偵事務所では・・・ 敷徳「あらゆる場所で聞き込みを行い一夫の人間関係を洗うんだ!」 一同「おーーーー!」 敷徳「成果があってもなくても夕方までに事務所に戻ってくれ」 一同は方々に散り捜査が始まった。(編集済)
敷徳・加奈・二夫は、一夫の働いているパン工場に来ていた。 敷徳「この職場で一夫さんを知っている人が、他にいないかを改めて探る必要はある。 そこで収穫がなかった場合、一夫さんが住んでいた近辺の飲食店や繁華街から探るべきか。」 二夫「茜さんは、兄と同じ時期にセミナーに参加していた人達とコンタクトが取れたみたいです。 原田さんからも遠征先の村を調べる為に、当時参加していた遠征メンバーと話をしていると。」 熊野は署に戻り、シクトク村と原田が語った村の状況を探っている。 加奈「あっ、あの人柿沢さんじゃ?」 加奈は事務所に献花をした、一夫のパート先の柿沢の姿を目撃した。 #遅くなりましたが、紅琥村の(紅琥)呼び方は(べにこ)です。
柿沢「あら、皆さん」 敷徳「久しぶりです。一夫さんが親しかった人に話を聞きたいのですが」 柿沢「そうね。文也君が仲良しだったわね」 柿沢は文也を呼んだ。 文也「僕は一夫君とは同い年で、休日は一緒に遊びに行ったりしました」 加奈「どんな遊びをしてたの?」 文也「卓球です。公民館に卓球台があるので」(編集済)
敷徳「何か変わった様子は無かったかい?」 文也「卓球する時、いつも公民館で待ち合わせるんですが、一夫君が一度空色のベンツで来た事があって驚いた事があります。聞くと、知り合いが送ってくれたと。車はすぐ走り去ったので運転手の顔は見てないんですが」(編集済)
三人はパン工場を後にした。 二夫「もし、車の持ち主が犯人だとすると、犯人は金持ちなのかもな」 敷徳「送迎するほど、親しくしてたんだな」 加奈「空色のベンツなんて珍しいから、持ち主を調べれば見つかるかも」 (編集済)
敷徳のスマホが鳴る。 茜「茜ですけど、あの今話せますか?」 敷徳「大丈夫ですけど。」 茜「良かった。 離脱した参加者の人達から、一夫さんについて聴いた話なんだけど。 その人達は、月に1回は集会として集まっていて、一夫さんもその会に数回は参加したみたい。 それでそのお店なんだけど、そこが一夫さんの自宅周辺にあるのよ。」
敷徳「集会に主宰の山中は参加してるのか?」 茜「主宰は関与してない。弟子たちの勉強会みたいな感じ」 二夫「空色のベンツに乗ってる人はいた?」 茜「主宰から番号聞いて、電話しただけだから分からない。ただ、今日これから集会があるみたいだから店の駐車場見れば分かるよ」 三人は店に行くことにした。
そこは個室制の料亭だった。 隣接する森林に隠れて駐車場を見張る。 敷徳「あと15分で予定時刻。今の所ベンツは無いな」 加奈「虫に刺されて痒いです〜」 二夫「交通量は少ないですね。来たらすぐ分かると思います」 (編集済)
敷徳「車はまだかな、うん茜さんからだ。」 敷徳は茜のラインを黙読した瞬間、頭を抱えた。 加奈「どうかしたんですか?」 敷徳「これを見てください…」 敷徳は加奈と二夫にスマホを見せた。 茜「件名:ごめんなさい。 今、事務所前で合流した兄さんと…山中主宰の3人で料亭に向かっています。 何でも、山中主宰が勉強会の内容が気になるらしくて。 お客様の方が勉強会の内情が探れて有利とか、懐石は自分が奢るから協力させてと強引に。 本当にごめんなさい、ただ収穫も一つ。 主宰が運転する赤のフェラーリの前に、空色のベンツが私達と同じ料亭の方向に向かっています。」(編集済)
二夫「主宰は何を神経質になってるのかな?」 敷徳「組織の分裂を恐れてるな。分派が出来るのを警戒してるのだろう」 加奈「あっ来た!」 ベンツとフェラーリは立て続けに駐車場に入ってきた。(編集済)
ベンツから降りてきたのは、野球帽にサングラスをした中肉中背の男だった。足早に料亭に入っていった。 フェラーリから降りた主宰、茜、原田も料亭に入っていった。 野球帽の男は、角の個室に入っていった。既に全員集まっていたらしく早速集会が始まった。 隣の個室に主宰たちが入り、主宰は壁に耳を当てて会話を聞き取ろうとした。 (編集済)
敷徳「野球帽の男に見覚えはないな」 二夫「僕らはどうします?」 加奈「当分出てこないでしょうし、ちょっとベンツを観察してみない?何か車にあるかもよ」 三人は空色のベンツに向かった。 (編集済)
敷徳「車内を覗いてみたが、怪しい物は何もないな。」 加奈「そう言えば、茜さんは野球帽の男の事は知っているのでしょうか。」 二夫「もし知っていたら、スマホにすぐ連絡があるのでは?」 3人が考え込む中、茜から連絡が入る。 茜「集会の参加者の中に、私や一夫さんと同じ合宿の参加者がいる事が分かったわ。 それと兄さんから、遠征先の村で話したいことがあるって。」 茜のスマホを、少し泥水気味の主宰が奪った。 主宰「もしもし、僕のマイフレンズ達元気? あのさぁ、マイフレンズ達の分の一番高いコースの懐石料理もうすぐ来るから、こっちに来てくれないかな~? それにしても、あいつら勉強会と偽ってふざけんなよな~まったく。」(編集済)
敷徳たちは主宰と合流した。 敷徳「主宰は野球帽の男はご存知ですか?」 主宰「いいや。会ったことも無いな」 茜「私が電話したのは、彼以外の方達だよ」 壁から声が聞こえてくる。 野球帽の男「本日から加わった者です。ここでは匿名を条件に人生の迷いを皆で断ち切ろうとするサークルと聞き参加を決めました」 主宰「僕がしてきたのを丸パクリかよっ」 加奈「匿名という所だけ違いますね」 敷徳「初参加だったのか。本名を名乗らないのは痛いな。せめて何の悩みか分かればいいけど」
原田「一夫とは前からの知り合いだったの~」 加奈「何処で出会ったのかな?」 思案してると豪華な懐石料理が運ばれてきた。 主宰「みんな、本日は無礼講じゃ〜」 一同「カンパーーーーーイ🍺」
二夫「(って、本当に良いんでしょうか?)」 敷徳「(まあ主宰の機嫌を損ねない為に、形だけで)。」 2人は苦笑しつつも、ノンアルコールビールを飲み始めた。 茜「そう言えば兄さん、遠征先の村で得た情報についてだけど?」 原田「ああ、元チームメイトがその村の名物である「紅都琥志の大樹」という木の写真を送ってくれたんだよ。 ただ、これって「血塗られた木」に似てない?」 原田が見せた写真には、神々しい美しさとどこか違和感を感じさせる木だけが映っていた。(編集済)
茜「これも紅葉かな?大きさも同じぐらいだね。同じ時期に植えたのかな?」 敷徳「紅都琥志(クトクシ)の大樹という名前が気になるな。シクトクの反対だ。原田さん、村の名前と場所が知りたい」 原田「僕はすっかり忘れてたけど、元チームメイトは覚えてました。村の名前は紅琥村で旧名がクトクシ村。場所はシクトク村の山の反対側です」
敷徳「紅琥村で病気や木の事を聞きたいな」 すると、敷徳のスマホが鳴った。熊野だった。 熊野「そちらの捜査はどこまで進んだ?」 敷徳はこれまでの経緯を話した。 熊野「病気も木もか。共通点が多いな。実は村が出来たのも同じ年なんだ。江戸時代に何もなかった草山を切り開いたらしい。木はその時に植えたのかな。ただ紅琥村ではこれまで事件は起きてないな」