鬼滅の刃遊郭編が始まりましたね!
鬼滅キャラで恋人、夫にしたいのは誰ですか?
鬼殺隊、鬼、その他モブなんでもOK!
ご新規様も大歓迎!
心に秘めた夢妄想を吐き出していきませんか?
アンチはお帰りください。
お題で妄想、長文で妄想、ピュア 悲恋
などなど!ジャンルは問いません
以下の事にだけ気を付けてあとはご自由にどうぞ。
【NG事項】
○荒らしに構う
○意図的なコテハン
○二次創作の転載・リンク貼付NG(自作はOK)
○過度なキャラ下げ
○BL、非公式CP話
○他掲示板、トピの不満
○R15以降は21時~翌5時(感想コメントも同様)
※上記以外のルール付け加えや会議は始めてしまうとキリがなくなるため一切禁止とします。
地雷はミュートで各自自衛してください。
⚠️夢妄想はニッチなジャンルです。
彼氏にしたい、結婚したいその他推しとあれこれしたいなどの妄想はここ以外ではまろび出さないよう注意してください。
⚠️我々夢女子は地雷の上でタップダンスをしています。
その自覚を持ち、各々自衛スキルやスルースキルを鍛えながら派手に楽しく妄想ライフを送りましょう✨
※なおこちらは試験的に立てたトクのため次トクは立てなくて結構です。
【鬼たちのホストクラブ(1)】
そのホストクラブにはホームページはなく、実際に存在するのかとさえ言われている。
老舗の料亭のように資産家あるいは有名人の女たちの紹介制だともっぱらの噂だ。
しかしシク子のようなごく普通の若い会社員でも常連になる道があった。
新月の夜の十時、青山霊園の暗い通りで一人でいれば音もなく黒い車が横付けされる。黙ってその車に乗ればいいのだ。
都市伝説かと疑っていたが、げんに今シク子はこうして、何度目かの「デーモン」のソファに座っている。
どうしてもホストクラブ界の大物と言われる鬼舞辻無惨に会いたい…シク子はぼんやりとグラスを傾けた。
「どうしたの、シク子ちゃん」
「うわっ!」
担当の童磨がいきなり顔を覗き込んできた。
のど越しの良いフラスカーティの白ワインをごくごく飲んでしまったのも加わり、ドキドキして顔が赤くなる。
童磨はいつ見てもアルマーニのスーツがよく似合っている。
すかさず彼はストンと横に座り、ギュッと腰を押し付けてきた。
「童磨くん…今日お店が閉まった後、ちょっと焼肉行かない?」
「ええ~っ?」
いきなり顔が輝いた。
「僕、肉大好きだから嬉しいなあー。でもどうして?アフター誘ってくれるなんて初めてじゃないの?」
ニコニコとまた顔を近づけてくる。いつの間にか片腕をシク子の腰に回してきている。サラサラの髪の毛が頬に当たり、頭が沸騰しそうだ。
「恵比寿に炭火焼のいいお店ができたの、そこで童磨くんと色んなお話したいなあって」
「なになに?僕がシク子ちゃんのどこが好きかっていうお話?」
機嫌が良くなった彼は、物慣れた手つきで頬をなでてくる。
ふんわりと彼の手首のあたりから優雅なムスクの香りが立ち昇ってくる。
「このお店のこと、もっと聞きたいんだ。東京でも一番の名店なんでしょ。成り立ちとか、歴史とか知りたいなって」
謎の存在である無惨様に興味があるシク子は、用意周到に言葉を選んで話した。
カリスマ経営者は、自分の存在を知られること、興味を持たれることが大嫌いだと言われている。絶対に匂わせないようにしなくては……
しかし瞬時に童磨の目の奥が鋭く光った。
いきなりグイっと強く手首を掴まれてドキリとする。
「女の子は難しいこと言ったら可愛くないよ、やめよう。恋の話やおしゃれの話がシク子ちゃんには似合うんだよ」
声は笑っているが、顔は真顔だった。
店の端のボックス席だったので、童磨は調子に乗ってそのままぐいぐいシク子を壁に押し付けながら、まるで覆いかぶさってくるように言う。
首のあたりから違う薫りが立ち昇ってくる…男性用のスミレの香水だ…熱い空気の中に涼しい香り。
ふと顔を近づけて、もっとくんくんと嗅ぎたくなる衝動に駆られる。
気が遠くなり、シャンデリアの光だけが遠くにぼやけて見える。これが一流店の色恋営業か…。
「やめて」
ふと正気に戻り、ときめきと恐怖が入り混じった衝撃で、思わず絞り出すように声がでた。
「きれいだね、シク子ちゃん…」
手首をつかんだまま離してくれない。
「手相見てあげる。僕、不思議な力があるんだ。悩んだ人とか相談に来るんだよ。エライ女流作家さんたちも」
「いいよ、いいよ。占いとか怖いし」
童磨は強い力でぎりぎりと押さえつけてくる。
「いいから、さあ」
静かな狂暴なものを感じたその時、すっと横から誰かの手の平が差し出された。
「目!」
目のついた手の平に驚いて顔を上げると、そこには可愛いお掃除係として有名な矢琶羽くんが微笑んで立っている。
何度ホストに勧誘されても、難関大学の学生である彼は首を縦に振らないと言われている。
ニコニコしているけれど、困っているシク子をさりげなく助けにきてくれたのだ。
邪魔するなよ、という表情の童磨にもひるまず、悠然と落ち着いている矢琶羽くんはシク子の心を落ち着かせてくれた。
「矢琶羽くん、ありがとう」
笑顔の彼に見送られて店を後にする。
矢琶羽くんはキュッキュっと扉を磨き、そこにキラキラと東京の夜景が反射して美しかった。
シク子が歩きはじめたその時、後ろから声がした。
「あのう…、ちょっとこのあとご一緒できませんか」
「えっ」
振り返ると、さっきまで隣のボックス席で、猗窩座さんの接客を受けていた女性が立っていた。
【鬼たちのホストクラブ(2)】
「ごめんなさい、時間とらせて」
駅前のファミレスに入り、ドリンクバーでエスプレッソを持って席に戻って来ると、彼女が申し訳なさそうに言った。
「いえ、私も暇だったし。お話って何ですか?」
彼女はみるみるうちに顔を赤らめてうつむいた。
「さっき、あなたを見ていて羨ましくって。どうしたらあんな風になれるの?」
「あんな風って」
「童磨さんとすごく密着してたよね…」
「ああ、さっきの……」
まさか無惨様のことを聞きだそうとして童磨から脅されていた、とは言えなかった。
「いいお店のホストってすごいよね。何度か来るうちに自然にボディタッチしてきて、最初は指と指だけだったのに、今じゃ話してる間、ずっと肩を抱かれて腰を引き寄せられてるんだ…。でも今じゃ当たり前になって、驚かなくなっちゃったよ」
シク子は本心を彼女に話した。
スーツ姿の童磨は透明な宝石のようだが、接近するにつれてお互いの体温でロウのようにその表面が溶け出してくる。
獣みたいな不思議な匂いが立ち昇ってきて、もっと顔を寄せて舐め回して独占したい気になってくる。
次に店に行ったら、彼はいつものように「シク子ちゃん、お仕事お疲れ様」と笑って肩を抱き寄せ、「凝ってるね!がんばってるんだね!」と優しく揉んでくるだろう。
そしてその手はゆっくりと少しずつ、下へ、下へと降りてくるはずだ……。
自分の身体の芯のあたりがそれを待ち望んでいる。もちろん本能だけの話で、性格はそれなりに悪そうだな、と最初から薄々感じているけれど。
「猗窩座さん…私のこと、ちっとも触ってくれないんだよ」
「えっ、そうなの?あなたの接客をいつもしてるから、もうとっくにキスくらいしてると思ってたよ」
可愛くて優しそうな彼女の目に、うっすらと涙がにじんでいる。
シク子は猗窩座さんの店内の様子を必死に思い出す。
確かにあの人はヘルプと一緒に集団で盛り上がっていることが多い。
可愛い顔に見合わず上半身がたくましい伊之助くんと、金と赤の髪が特徴的な、声の大きい人と行動を共にしている。
「ヘルプもあんなメンバーだから…ゆっくりした雰囲気にならないのよ」
絶望するように、彼女の目からぽろりと涙がこぼれた。
確かにヘルプの二人は大騒ぎでゲームしているか、フルーツの盛り合わせを一心不乱に頬張っているかのどちらかだった。
急いでシク子はテーブルの上の紙ナプキンを差し出した。
「たぶん、猗窩座さんは、あなたのこと大切に思っているから手を出してこないんだよ。利益が上がる色恋営業じゃなくて友達営業をしてるのも、長くお付き合いしたいからだよ……それに、触って、って明るく自分からお願いしたらいいじゃない。奥手の人みたいだから、きっと喜ぶよ。そうだよ!」
猗窩座さんは無惨様の親戚だからこのお店を手伝っていると聞いたことがある。その当時は彼を指名しておけば無惨様に繋がれたかも、と悔しかったが、全然触って来ない男なんか少しも面白く無い。
良かった、担当が彼じゃなくて。もちろん顔には出さなかったが。
「そうだ、今度は私たち、二人で一緒にホストクラブに行こうよ。そして四人で過ごさない?私と童磨がすぐ目の前で絡み合ってイチャイチャ触り合ってるの見たら、猗窩座さんだって男だもん。刺激を受けてムラムラしてきて、きっとその気になるよ。そうしてみよう」
彼女の顔が輝いた。二人でLINEを交換してファミレスを出た。
夜風にあたって歩いていると、丘の上に防寒着を着た矢琶羽くんが立っていた。望遠鏡を覗き込んで、満天の星を眺めている。
「矢琶羽くん…」声をかけようとしたシク子を、彼女がそっと制止した。
「清らかな少年の夜を、邪魔しないほうがいいね」
二人は見つめ合って頷いた。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(3)】
童磨に会いたいシク子と猗窩座に会いたいシク美は、ホストクラブ「デーモン」の前で六時に待ち合わせた。
夕陽が沈んだばかりだが、早めの時間でなくては彼らを気に入っている他の女客と鉢合わせになってしまう。
彼女たちから見える状態では思うようにボディタッチはできないからだ。
「いらっしゃいませ」
シャンデリアの光がキラキラと降り注ぐ赤い絨毯の上を、誰もいない店内の隅の席に案内される。
「最初はお茶にしますか?」
長身の美男子がオーダーを取りにやってきた。
有名な「ウーロン茶の冨岡」だ。
客の財布事情を気遣うあまり、ソフトドリンクしか勧めてこない。そのせいで見た目がきれいなのに万年ヘルプだ。
「やあ、シク子ちゃん!シク美ちゃんもようこそ!」
奥から満面の笑みの童磨と、一歩下がって無表情の猗窩座がやってきた。
黒スーツのイケメンが二人一緒にやってくるとオーラがすごい。
シク子は猗窩座を近くで見るのは初めてだった。
自然な動きだが、体幹がたくましくて筋肉質なのは服の上からでもよくわかる。
シク美が彼に触って欲しいと願うのも、人間という名の動物の雌として自然なことと理解できた。
「童磨、会いたかった!」
童磨が腰を下ろすが早いか、シク子は笑顔で彼の首に両腕を回して抱き着いた。
「あれっ?シク子ちゃん、今日はすごく元気だね!」
上機嫌の彼は、八重歯を見せて子どものように笑った。
円形のソファの中央に童磨とシク子、猗窩座とシク美が落ち着くと、ヘルプの冨岡と煉獄が黙礼して端の方に座った。
(よし、猗窩座さんにイチャイチャを見せつけてやるぞ!!)
シク子の頭の中でホイッスルが高らかに鳴る。
横にいる童磨に腰をぴったりくっつける。
「あたし、この数日間、ずーっと童磨に会いたくて会いたくてたまらなかったんだ~。今日童磨を独占できてすっごく嬉しいよ~!」
「えー嬉しいなあ、シク子ちゃん可愛いなあ!」
無垢な目の童磨も負けずに声を張り上げてくる。
(そうそう、こういう単純なところがいいのよね!)
嬉しくて彼の膝小僧を撫でまわした。
そのままトロンとした目で下から童磨の顔を覗き込むと、彼は潤んだ瞳で愛しそうにシク子の頬を両手で包み込んでくる。
「ねっ…?」
小さなおねだりの声に応えるかのように彼の唇がシク子の唇に重ね合わされた。
そのまま二人で抱きしめ合う。
(よし、これよ、これ!見てますか、猗窩座さん!)
心の中でガッツポーズし猗窩座にチラッと視線を移すと、彼は微動だにせず無表情だ。シク子は身を乗り出して言う。
「ねえねえ、猗窩座さんも、シク美ちゃんにここでキスしてみてよ~」
顔を真っ赤にしてうつむいているシク美。その時童磨が口を開いた。
「だめだよ、無理言っちゃ。猗窩座殿はオーナーの親戚でここにいるだけだし、もともと純情なんだよ。それに……まだ彼は童貞なんだ」
ぶはっ!!と冨岡と煉獄がさくらんぼの種を口から噴き出した。
猗窩座はと言えば、明らかに不機嫌な顔をしている。どうやら童磨とは仲が良くないのだろう。シク美は少し慌てたようだ。頬を紅潮させ、意を決して口を開いた。
「猗窩座さん、私、嬉しい。もし猗窩座さんが私の手を握ってくれたら…」
猗窩座は憮然として言う。
「シク美さん、女の方からそういうことを言うもんじゃないですよ…」
「あれ~?猗窩座くん、それは僕のシク子ちゃんへの冒涜だよ?」
童磨は笑いながらも、目は彼を睨みつけていた。
一触即発の空気になったところで、猗窩座の上客の女社長がやってきたことで彼は席を外し、危機を免れた。
冨岡が童磨に命じられてイタリア産のブランデー、グラッパのボトルを運んできて、グラスに注ぎ分けた。
重苦しい空気の中、皆で静かに飲んでいると、おもむろに童磨は口を開いた。
「猗窩座殿が行っちゃったから、シク美ちゃん、煉獄くんに抱いてもらったらどう?」
「えっ」童磨の言葉に二人が驚いている。
(ち、ちょっと!この大食いの、バカ騒ぎが好きな彼は、そういうの無理でしょ…)
ところがそうでもなかったのだ。
煉獄くんは、シク美ちゃんの猗窩座への恋心にも、童磨のメンツにも配慮しながら、さらっと一度だけ密着しないように包み込むように抱きしめて、優しくにっこりと笑ったのだった。
(へえ…わりと紳士なんだ…それによく見たらいい男じゃん…下半身もどっしりしてるし…すごく鍛えてる感じだし…)
アルコール度数30度のすっきりとしたグラッパは、今になってシク子の全身に効いてきたようだ。
ぼんやりと煉獄くんのほうに視線が吸い寄せられ、しばらくノーネクタイの彼の首元から覗く鎖骨のあたりをじっくり眺めてしまう。
その途端、ぐいっとあごをつかまれた。
童磨が荒々しくシク子の唇を奪い、強い力で舌をねじこんできたのだった。
狂乱状態が繰り広げられているその時、店内にはたった一人だけ冷静な人物がいた。
その男・矢琶羽は店内をぐるっと見回すと、さっと金庫の中の鍵束を取り出した。
そして風のような速さで非常階段を駆け上がって行ったのだった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(4)】
ホストクラブの夜は更け、シク美は帰宅し、童磨たちホストは賑わってきた店内で忙しそうにあちこちの客の相手をしている。
シク子は誰からも指名が入らない「ウーロン茶の冨岡」と二人で店の片隅にいた。
彼なりに気を遣ったのか、アニメやゲームの話を何度か振ってきたが、シク子は興味が無いので全く盛り上がらない。ぼんやりしていると来店から2時間が経過した。
「お客様、今日はありがとうございました。送り指名は誰にしますか」
送り指名とはホストクラブ特有の、お店の外まで見送ってくれるホストを指名するシステムだ。
(こらこら…『“シク子さん“といると楽しいし、もう少し一緒にいたいから僕が見送りたいです』と、売り込まないわけ?)
彼女はあっけにとられる。
「……じゃあ、煉獄くんお願い」
素っ気なくバッグにスマホをしまいカーディガンを羽織りながら答えると、冨岡はソフトドリンクの注文を取る時と同じ表情で一礼し、バックヤードへ消えていった。
(まったく。ちょっとは残念そうな表情しなさいよっ。商売下手だな!)
「シク子様、お待たせしました。お見送りいたします」
煉獄の声にパッと顔を輝かせて上を見ると、隣には伊之助も一緒に立っている。
「あんた、どうして一人で帰れないの?出口はすぐそこだろ?」
失礼なことを言うが、二人とも顔が真っ赤だ。客にしこたま飲ませられたらしい。
さっきシク美ちゃんを優しく抱いていた煉獄くんと二人っきりになりたかったのに……あの素敵な繊細な煉獄くんはどこに行っちゃったのよ。残念だが仕方なかった。
扉を開いて外へ出ると、涼しい風が吹いてきた。隣を見ると二人はすっかり出来上がっていて、沖縄のハイサイのような振り付けで上機嫌で踊りだしている。
「むざんのおうちは~、いいおうち~」「むざんのおうちは~、さんちょうめ~」
「ハハハ!ハハハ!」
「えっ!!」
その歌詞にびっくりしたシク子は急いでスマホを取り出した。そして歌詞を記録した。三丁目四番地の五……!!
その時突然、後ろからぎゅっと抱きすくめられた。童磨の匂いだとすぐにわかった。頬と頬を密着させてくる。
「シク子ちゃん…どうして担当の僕を指名してくれないの?なんで煉獄くんなの?ひどいよ……」
耳元で熱い息を吹きかけてささやきながら、シク子の肩を両腕で締め上げてくる。そしてすかさず手の平を開き、小指でさりげなく乳房の付け根の方を優しく撫でてくる。
「だって、銀座の瀬礼舞画廊の奥様とお話してるときに、退席させられるわけないでしょう」
「シク子ちゃんのためならいつでも出てくるよ…だから約束だよ。次からは僕だよ」
強引にシク子を正面に向き変えらせるとキスをしてきた。舌をじっとりと絡めてきて、舌ピアスが口内を刺激してくる。
いつかもっと彼の身体を知る日が来た時に、他の場所に仕込まれている何かを味わって、感じる日が来るんだろうか……?
ああ、それにしても、気持ちいいっ……
彼女が身体の芯を襲ってくる快感に目を閉じ、頬が上気するのを見届けると、童磨はサッと体を離した。
用心深く後ろを振り返ると、煉獄と伊之助は童磨に怒られたのだろう、姿は無くなっていた。
(ちぇっ。あたしは男といちゃついてる所を、他の男に見せるのが大好きな痴女なのに…)
夜風に吹かれながら、シク子は切ない気持ちになったのだった。
そのころ、矢琶羽は集中管理室で空気清浄機とエアコンの機能を最大にし、白いハンカチで口元を押えてしゃがみ込んでいた。
「うっ……女のいやらしさが空気をよどませとる……よく皆は無事じゃのう……」
夜の社交場に渦巻く女たちの欲望が濁って停滞し、フロア中に充満していることを察知できるのはチリ一つ見逃さない矢琶羽だけだった。息苦しさにゲホゲホと咳き込む。
「矢琶羽」
後ろを振り向くと、白いスーツにペイズリー柄の黒ネクタイを身に着けた鬼舞辻無惨が厳しい顔で彼を見下ろしている。そう、滅多に人前に姿を現さないこの店の経営者である。
しかし常に微笑みをたたえている矢琶羽は、無惨に会ったからといって特段に驚きはしない。そして常に広島弁なのも崩さない。すかさず笑顔で立ち上がる。
「社長、ドンファン特製のコンドーム即売会、お疲れ様じゃったのう」
「まあな……女たちが群がってきて大変だったぞ。握手会のアイドルになった気分だったな。今度お前も手伝え」
「遠慮するけえ。欲に満ちた女の肌に触るとかぶれて痒みが出るんじゃ。儂は無理じゃけえ」
無惨は本心を隠さない矢琶羽が好きなのか、いつもなら瞬時に首を掻き斬るところを、その可愛らしさに思わずふふっと笑ってしまうのだった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(5)】
「可愛いシャンパンタワー!!」
シク子は思わず目を細めた。
テーブルの上に、四つのグラスを固めて置いた真ん中に、一つのグラスを重ねてある。
それぞれに苺とレモンのスライスが入れてある。
「今日は煉獄くんの誕生日だから、お店にお願いしたの」
シク美が両手でモエ・エ・シャンドンのボトルを上から注いだ。
こぼれそうで心配になるが、下のグラスにはちゃんと透明な穴の開いた装置がつけてあり、綺麗に均等に注がれた。
シャンデリアの煌めく光の下、シク美と担当の猗窩座、ヘルプの煉獄と伊之助、そして今日誘われたシク子の五人で乾杯した。童磨は今日は定休日だ。
(でも…、ヘルプの煉獄くんのために最低二万円は使ってるはず。猗窩座さんはプライドが傷つかないの??)
ちらりと横目で彼を見ると、心底嬉しそうにニコニコと笑っている。シク子はガクっとソファから滑り落ちそうになった。
「煉獄、おめでとう~」
伊之助が足元に置いたビニール袋から、雑草で編んだリースを出してきたので驚いた。店の前の空き地に自生しているマーガレットやつつじ、季節遅れのタンポポや小さな梅の実などをあしらった、インテリア雑誌に出てくるようなしゃれたリースを完成させていたのだ。なんでも花輪作りが趣味の親友から教えてもらって上達したらしい。
「うむ、ありがとう!しかしこれは今日はシク美さんにそのまま渡させてもらうよ。俺の感謝のしるしと共に。……シク美さん、これはお礼です」
アイルランドが生んだノーベル文学賞の詩人・イェイツの詩集と、キラキラ煌めくスワロフスキーが全体にちりばめられた万年筆。喜ぶシク美に、
「読書や文章を書くのが好きと聞いていたから。俺のおすすめです」と付け加える。
(煉獄くんって育ちの良さが見えるよね…イェイツは何十年も同じ女性に片思いを続けたことで有名だし、真面目で一途なシク美は女心をくすぐられるはず…光り物はアクセサリーなら好きな男からもらいたいから、文房具にしておくのはいい選択だし…)
シク子はいけないと思いつつも、彼の横顔を何度も盗み見してしまうのだった。
夜は更け、シク美は煉獄を送り指名して帰っていった。
シク子は店の隅のソファ席に陣取り、猗窩座を呼んだ。
低い声で続ける。
「危ないわよ、猗窩座さん」
「何がですか?」
「このままじゃシク美ちゃん、いずれ煉獄くんを本担当にするよ」
はあ……とため息をつきながら猗窩座が言う。
「シク子さん、俺たちの組は色恋じゃなくて、友達営業なんです。利益は薄くても仲間で盛り上がるのが合ってるし。誰の指名で来てくれても構いませんよ」
「……猗窩座さんのフェロモンは格闘家系なのよね。ここが体育会系女子の合宿所ならいいけど、ホスクラに来る女には煉獄くんの家庭的なフェロモンも捨てがたいよ。シク美ちゃんのような太客を奪われたら、ヘルプに成績抜かされる恐れが出てくるんじゃないかな?」
これまで黙っていた猗窩座の目の奥がバッと怒りで燃えるのがわかった。
そう、男は皆、負けるという言葉が大嫌いだ。
「……とにかく、シク美ちゃんはあなたが好きなのよ。わかってあげて。可哀想だよ。煉獄くんや伊之助くんまで巻き込んで家族のようになるくらい本気なんだよ、彼女は」
「わかってあげてって…、何するんですか?キスしたり体の関係持てってことですか?」
ここで(遊園地とか、映画とか…)と綺麗ごとを言わない猗窩座を、シク子は気に入っていた。
「あなただってこれまで全然彼女がいなかったわけじゃないでしょう?だったら女が心の底で何を望んでいるのか、わかるでしょ」
「……婚約者はいたけど、死んじゃったんですよ……」
衝撃の一言が返ってきた。シク子はもう何も言えなかった。
ぼんやりしながらマンションの自室のドアの前に立ち、ポケットから鍵を取り出すと、何かに足がつまづいた。
Amazonの置き配か?と足元を見ると、それはしゃがんでいる人間だった。
「童磨!」
住所まで教えたことは無かった。顧客名簿を見たのだろうか?
パーカーとジーパン姿の童磨はうるうると涙ぐんでシク子を見あげ、力なく立ち上がって抱き着いてきた。
「シク子ちゃん、今日店に行ったんだって?ひどいよ、僕の休みの日なのに……」
「シク美ちゃんに誘われたからだよ。煉獄くんの誕生日だからお祝いしようって」
「みんなで煉獄くん、煉獄くんって、彼ばっかり褒めて!!ひどいよう!!」
うわあああんと子供のように泣くくせに、大声に困ったシク子がマンションの扉を開けると、抱き着いたままチャッカリと入り込んできた。
そしてドアが閉まるのを合図に、ものすごい力で壁に押し倒し、首筋に吸い付いてきた。玄関の暗闇の中で獣の雄に切り替わったのだ。
「離してっ、離して!!」
大声は出せない。静かな声で力いっぱいもがいて抵抗する。
「だってこうされたいんでしょ?キスされたり体を求められたりすると嬉しいでしょ?俺、ずっとシク子ちゃんのこと好きだったし…いいでしょ?」
男は女の扉のこちら側にたった一歩踏み込んだだけだというのに、声はいきなり低くなり、一人称は僕から俺へと変わっている。
しかし息遣いの激しさとはうってかわって、動きは物慣れていた。ブラウスの上に手を這わせてブラをずらし、乳首をもてあそんでくる。
シク子は布越しに得られる突き抜けそうな快感と、吸い込まれそうな恐怖から逃げられない。
ちょうどそのころ、真夜中の12時、月明りの下の横浜・日吉駅………。
矢琶羽は、改札を出たところにある大きな銀色の輝く球体、通称「ぎんたま」の前に立ち、それに手をかざし、一心に何かを念じていた。
(世の中を救うのじゃ…)
矢琶羽の首飾りの玉は、この日吉の「ぎんたま」と呼応しており、俗世間の邪な欲望を浄化することができる。
ただし、半径3メートル以内に銀製品があると効力が失われる。
金持ちの慶應生が、ひっきりなしに高価な指輪や時計を装着して横を通るため、こんな夜中になってしまったのだった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(6)】
「はあっ…あん…」
チュッチュッと、いやらしい音が暗い部屋中に響き渡る。
シク子は童磨に玄関で押し倒されたまま、心は抵抗するものの、体はまったく言うことを聞かず混乱していた。
茫洋とした意識のもとで、童磨の舌に転がされた乳首が固くなっていく。彼のじっとりとした手の平をじかに肌で感じて初めて、ブラウスの袖は通っているのにボタンはすべてはずれていることに気づき、床に落ちた紫色のブラジャーが視界に入るのだった。
「シク子ちゃん…いいよね?どうせ結婚するんだよ、俺たち…」
こんな乱暴ないいかげんなプロポーズなどあるわけがないことは、興奮状態のシク子でもはっきりとわかった。
しかし彼女の熱い神経はからだの芯だけに集まり、彼を押しのける腕に全く力が入らない。今はもうかろうじてフレアスカートだけが彼女の大切な部分を隠していた。
抵抗できない強い力で無理やり足を開かされ、カチャカチャと童磨がベルトを外そうとしたその時、
「うわあああーー!!!」
ドンっと衝撃が走り、吹き飛ばされた彼はガン!と壁で頭を打った。その音で正気に戻ったシク子は、胸を手で押さえて飛び起きる。
「ど、どうしたのっ、大丈夫?」
「し、しびれる…しびれる…ううっ…」
「ど、どこがっ!」
「股間……いやっ、何でもない!ご、ごめん、僕帰るよ!」
童磨はリュックを部屋に残したまま、ドアの外へと走り出していった。
ちょうど同時刻。星空の下の日吉駅……。
「ふう……今日の浄化の儀式がようやく終わったのう」
駅前の「ぎんたま」。矢琶羽は巨大な球体に手をかざしながら、フッと「ぎんたま」と自分の首飾りの結界が途切れるのを感じた。
「今夜最も邪悪な人物の、邪悪な体の部位に、しっかりと衝撃を与えることができたのがわかったわい……さて帰るか」
「矢琶羽、何してるんだ?」
「サ、サイステ!見とったんか!」
昼にしか会わない、経済学部のクラスメイトに後ろから唐突に声をかけられ、矢琶羽は飛び上がった。
「ブツブツ、ぎんたまに話しかけてなかったか?そうそう、明日は「たまり」(←サークルが集まる学内のスペース)に13時だぞ?あ、その前に「ぶたぼし」でラーメン食ってこうな~」
サイステはそう言い残すと、アパートの方向へとチャリで消えていった。
「くっ…サイステはあの動物的なラーメン屋が好きじゃのう……」
浄化儀式の疲れの残る矢琶羽は、しばらくそこにたたずみ、彼の背中を見送った。
「累でーす」「無一郎でーす」
「あれ?童磨は?」
「今日は病院で精密検査受けるって。ごめんなさい、って言ってました」
数日後のホストクラブ。
腰をかけるやいなや、ティーンエイジャーらしき可愛い男の子が二人でちょこんと横に座ってきて、シク子は面食らった。
「シク子さん、あやとりしょうよ……ほら、そことそこに指を入れて」
「お姉さん、僕コーラ飲みたいから勝手に頼むねっ」
(ちょ、ちょっと…あたしは保育士さんじゃないわよっ)
困惑しながら累の誘いに応じていると、無一郎が大きなお目目をぱちぱちさせながら囁いた。
「童磨さん、電話ですごく機嫌悪くって大変だったんですよ。
シク子さんの担当、シク子さん好みの長身マッチョだけは絶対に近寄らせるなって厳命されたんです。だから僕たちが今夜はお付き合いします」
(うわ、あたしの男の好み、見抜かれてた…さすが童磨)
その時、店内が一瞬だけ暗くなり、次の瞬間にシャンデリアがパアッと七色に輝き点滅しはじめた。これは、スーパーVIP客が入って来る時だけの特別仕様だ。
よくわからないまま、三人も場内の皆につられて拍手を送る。
ライトに照らし出された両開きの扉を、うやうやしく手袋をした二人のホストが開け放つ。
「沙紀さまーー!!」
「奥様!!ようこそいらっしゃいました!!」
ホスト全員が一斉に立ち上がり声をかける。
「沙紀さま??」
シク子が不思議そうな顔をすると、累が
「紀州のドン・ファンの奥様です。普段は別居なので、こうしてよくお1人で遊びにいらっしゃるのです」
と小声で説明してくれた。
黒い豊かなロングヘア、すらりとしながらもボンキュッボンの肢体。それは同じ女のシク子でも見とれてしまうほどの迫力で、しばらく彼女が通された席から目が離せない。
「えっ…?ええっつ…あの人の担当…「ウーロン茶の冨岡」?なんでえ??」
よく見ると、スンとした顔の冨岡が、珍しくゲストの真横に座っている。
彼が大富豪の奥さまの担当?
あんな無愛想でトーク下手なホストでは、奥様の機嫌を損ねかねない。
「沙紀さまは突然いらっしゃるので、今日お相手できるのが、唯一誰からも指名されていない彼だけだったのです」
「沙紀さまは非常に面食いなので、冨岡の写真を見て一目で気に入ってしまって…受付は止めたらしいんですが…」
累と無一郎が小声で説明してくれた。
三人でおしゃべりしながらも、シク子はちらちらと、一段高い席にいる沙紀さまと冨岡から目が離せない。
10分後、二人はおもむろにニンテンドースイッチを取り出し、対戦ゲームに熱中しはじめた。
「沙紀さまはドン・ファンとお見えのときにも携帯ばかり眺めていらっしゃって、ゲームに夢中な人なので、あんがい冨岡は適役だったかも知れませんね」
累が美しいあやとり文様を披露しながらつぶやいた。
「ロマネ・コンティのオーダーいただきましたっ!」
静寂を突き破るように、興奮したホストの声が響き渡った。皆が目を見開いてギョっとする。
「沙紀さま!!ありがとうございます!!」
酒に詳しいシク子も初めてその姿を目にする、幻の名酒の瓶が恭しく運ばれていった。
(さ、さ、300万円の世界一のお酒……!!まさか今夜、瓶だけでも実際に見ることになるなんて!!)
興奮がおさまらない。
目で追うと、沙紀さまはグラスに注がれたそれを、香りを嗅ぐこともなく口をつけた。
おそらくロマネ・コンティの価値を知らない冨岡も、表情一つ変えることなく平然と飲み始めている。
それは、伝説のナンバーワンホストが誕生する瞬間であった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(7)】
今からさかのぼること半年前……。
東京・信濃町にそびえたつ慶應義塾大学病院。言わずと知れた政界・実業界の有名人御用達病院である。
そのすぐ近く、新宿御苑と明治神宮の緑を望む都心の一等地には、毎日美しく着飾ったマダムたちが花束を持って訪れるもう一つの有名病院があった。
その名も「キブツジ・インターナショナル・クリニック」。
自身も欧州貴族の血を引く外交官の息子であり、慶應医学部を首席で卒業したドクター・鬼舞辻が、長年慶応病院で腕を磨いた後、満を持して数年前に開業した「美しい人生を送るための」病院である。
心身の健康を保つためには、四季折々の美しい花々を眺め、ゆったりとした時間を持つことが重要だと提唱する彼の病院には、患者がくつろげるバラ園があり、アフタヌーンティーも楽しめる。ガーデニングを参考にしたい各国の大使夫人たち、株の売買に不安な毎日を送る女性実業家、ママ友関係に疲弊したタワーマンションのマダムたちが、癒しを求めてやってくるのだ。
そしておしゃれなひととき以上に、患者たちをときめかせる存在がここにはあった…。
「ちょっと~、わざわざ和歌山から来たのよ。いつになったら診察してくれるのよ!」
「沙紀さま、待合室の混雑を見ればわかるでしょう。予約だけで大変だったのです。少々お待ちください」
車椅子の上で無言でうなだれているドン・ファンと、なかなか順番が回ってこないことにイライラする妻の沙紀、それをなだめる初老の執事。
「さっさと病院済ませて、表参道の美容室に行けるかと思ってたのにっ!!」
荒々しく車椅子の車輪をハイヒールで蹴飛ばす姿に、待合室のマダムたちは眉をひそめた。
その時、周囲の喧騒をよそに、「べべんっ!!」と琵琶の音が響き渡った。
お知らせの合図は、この琵琶の音。各国の大使夫人たちに日本文化を味わってもらうことも目的の一つなのだ。緊迫感ある音色に、外国語の飛び交う待合室は静まり返る。
「野咲公介(のざきこうすけ)さーん、診察室におはいりくださーい」
「あーーやだやだ、時間ムダにしちゃった。ほら行くよ、ジジイ!」
車椅子重いんだからっ!とブツブツ言いながら、沙紀はドアを開けて乱暴に中に入った。
くさくさした気分で車椅子のストッパーをかけようとすると、ふっと優しく沙紀の手にふれて手伝ってくれる。誰だろう。
「お待たせしました。院長の鬼舞辻です」
「………!!」
見上げて激しくドキリとする。ここのドクターがイケメンだとは雑誌で知っていたけれど、こんなに後光が差してキラキラ見えるほどに美しい、背の高い男性だったとは。切れ長の大きな優しい目、高価そうなスーツの上に白衣と聴診器が似合っている。沙紀は惚れ惚れとして黙り込み、椅子に静かに腰をかけた。
「今日ははるばる和歌山からいらしてくださったとお聞きして、僕も嬉しいです。公介さんの検査結果を見ると、このまま食事に気をつければすぐに歩行の自立ができますよ」
にこやかにドクターは言う。沙紀は少しホッとした。
「良かったです~。あたしオムツ替えとかやりたくないしー。」
足を組んでヘラヘラと言い放つ沙紀を、ナースたちが複雑な表情で眺める。
診察が終わった後、パソコンに向かってデータを打ち込んでいる鬼舞辻に、黒髪で顔の半分を隠した看護師長が真剣な顔をして小声で言った。
「野咲さんの奥さんは、高齢のご主人を虐待しているか、もしくは予備軍です。どうしましょうか。まずはガーデンのハーブティーで心を癒していただき、その後セラピーの専門家に紹介状を出しましょうか?」
「そうだな……彼女にはもっと熱い治療が必要だな」
「熱い??」
「まずは公介さんをここに一旦入院させよう。君から、今日の夜8時に、沙紀さんと執事さんの二人でこのカードの場所へ来るように言っておいてくれ」
小さなカードを渡された。そこには、東京で最も格式高いホストクラブ、「デーモン」の住所と電話番号が書いてあった。
そう、鬼舞辻にはドクター以外にもう一つの顔があるのだ。敏腕ホストクラブ経営者というもう一つの顔が……。
しかしその秘密を知っており、患者とホストクラブの連携を取る役は、この鳴女看護師長ただ一人だ。
その日の夜、旦那を病院にブチ込めた解放感と、久々に男遊びができる歓びで一杯の沙紀は、執事と一緒にホストクラブを訪れ、奥のソファ席にダイブした。
「嬉しいな。しみったれた暮らしとしばらく離れられる!」
「沙紀様、ちょっと声を小さくしてくださいよ…」執事はきょろきょろ場内を見る。
「だれを指名しようかなっ。この冨岡って子の顔、めっちゃ好み!」
その時、スッと横に誰かが立った。
「今夜のお相手は私がいたします、沙紀様」
驚いて見あげると、そこには髪の毛をゆるくウエーブをかけて、黒服に着替えた鬼舞辻が立っていた。楽しい夜になりそうだ、と沙紀は有頂天になる。
「でさー、もうあたし、離婚しようかと思ってるの。月100万って約束だったのに、東京にちょっと長くいると、ジジイがイジワルしてきて振り込まれないし!」
何本もワインを開け、ぐでんぐでんに酔っぱらった沙紀の愚痴はずっと続く。執事は恥ずかしくてたまらない。
「これ、沙紀様……院長先生がお相手してくださっているのに、みっともないですよ」
「介護なんかやだ~、まだあたしは22歳だ~っ」
「沙紀様、人のために一生懸命生きれば、あなたは年をとってもっともっと綺麗になるのです」
その会話を静かに聞いていた鬼舞辻が、ふと会話に入ってきた。
「いえ、綺麗になんかなりませんよ」
「!!??」
執事はびっくり仰天する。人格者で有名な鬼舞辻が突拍子もないことを言い始めたからだ。
「僕は大勢の患者さんを見てきました。
母親を長年介護した娘さんは、数年で母親よりもずっと老けて、おばあちゃんみたいになりました。
重度の障害を抱えた兄を介護した弟さんは、しわしわになって、白髪が増えて、目も落ち窪んでね…気の毒でした」
「……」
「人助けやボランティアで痩せて綺麗になる人よりも、多大なストレスで自律神経系がやられて、ドカ食いをして激太りする人が多いというのも、医師の僕の実感です」
「……」
「人のために生きれば綺麗になるなどというのは妄言です。僕がホストクラブとクリニックを作ったのは、それが理由なのです」
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(8)】
「はあっ…いいっ…んっ…!!」
無惨の豪邸の寝室で、沙紀は彼の固いものを身体の中心に何度も何度も突き刺されながら、その熱と波に思わず大きなあえぎ声を出した。
天井にはステンドグラスの鏡がはめこんであり、彼が動くたびにたくましい背中に肩甲骨が盛り上がるのが見え、沙紀はますます快感が高まるのを感じた。
「君はずっと性生活に不満を持っていたんだろう。クリニックでイライラした様子を一目見た時にすぐ感じたよ。心身の空虚さを埋められるモノは一つだけしか無い……だからいま、こうして熱い治療をほどこしているんだ……きみには若い男が必要なんだ」
「あっ、いくっ」
両胸の乳首も同時に男の両手でぬるぬると責められ、舐められ、もう沙紀は絶頂寸前だ。
「まだだ…どうだ?自分の夫のつくったコンドームをつけた男にガンガン責められる気分は…」
茫洋とした意識の中で、沙紀は何も答えられず、代わりに快感で顔をゆがめることしかできない。
「ああ無惨様、もっと、もっとくださいっ」
沙紀が泣き叫ぶと、今度は彼は仰向けになり彼女に命じた。
「こんどは俺の上に乗るんだ…下からじっくり君の胸と腰の動きを眺めたいからな」
沙紀は汗ばんだ髪の毛を後ろへ流すと、放心状態で彼の上にまたがった。そして大切なところに触れた。かすれる声で言う。
「これ、もう取ってよ…お願い。」
「いや、今夜は沙紀と俺と、ドン・ファンの3人で楽しむ気分になりたいからな。このままだ」
泣きそうになりながらも、抵抗できない沙紀は無惨の上で無心で腰を振り続ける…
その後は後背位で臀部を掴まれながらずっといかされ続けたが、疲れよりも快感がどんどん上向いてくるのが不思議だった。
「こんなにはしたないことをしてしまって…ベッドを取り囲むお花たちに見られて、恥ずかしい」
「これは患者のマダムたちが持ってきてくれるものだ。病院には置ききれなくてね…」
沙紀の乳首をもてあそびながらも、無惨は彼女の太ももをがっちりと自分の足に絡めて固定し、彼女を攻め続ける。
(可哀想なお花たち…ここでずっと、めしべとおしべがくっつくこともないまま、暗い部屋の中で枯れていくんだ…)
四つん這いになり、枕に顔をうずめながら沙紀はふと、待合室にいた着飾ったマダムたちの幸せそうな微笑みを思い出した。そして今、無惨のモノを独り占めしている自分の勝ちなのだと得意になる。
一瞬の隙を見つけてそっと腰を浮かすと、そっと気づかれないように、ドン・ファンを象徴するコンドームを抜き取った。
二人で絶頂を迎えた後、さぞや無惨が驚くだろうと思ったが、案外平然としていたので拍子抜けする。
「知らないぞ。傷つくのは君だけだからな。緊急避妊薬が欲しくなったらまた明日、来い」
冷静に言う。
「ただ……おれのものは直接、女の奥に着くと危険だぞ?見えないものが見えてくるが驚くなよ」
そう言い放ったのだった。
翌日沙紀はまた一人でクリニックへと向かう。薬が欲しかったからではなく、ただ再び無惨に会いたかったからだ。執事には空港で待つように言い、一番最後の患者になるように遅めに出かけた。
しかし彼は夕暮れの診察室の中で、何事も無かったかのように話すだけだ。
長々と居座る沙紀を帰らせたいこともあってか、周囲の看護師たちが別室へとガラガラと医療器具を片付け始めた。
「先生、ここでして…あたし下着つけてこなかったの」
潤んだ目でささやきながらミニスカートをたくし上げて詰め寄る沙紀に、無惨は静かに言う。
「何を言ってるんだか…昨夜、ひやりとさせられたことは忘れないぞ。でも、ホストクラブに500万円落としてくれたら考えるがな」
カチャリと何かが落ちる音がして、二人が振り向くと、そこには鳴女看護師長が無表情で立っていたが、すぐにさっと姿を消した。
(500万円ホストクラブで使えば……もう一度無惨様がわたしを抱いてくれる……)
沙紀はぼんやりと、昨夜の火照りを身体の奥に感じながら、フラフラと都会の雑踏をどこまでも歩いた。いつの間にか日は暮れて、気が付くと「デーモン」の瀟洒な門の前に立っていた。
ギイ、と扉を開いて中に入ると、薄暗い受付には白ヘビを身体に巻いた、大きな澄んだ目の華奢な男が立っていた。
東京一のこの「デーモン」には、勝手に警備をしてみかじめ料(警備料金)を要求してくるチンピラが後をたたない。
しかし受付で伊黒と相棒の白ヘビにキッと睨みつけられると、それだけでほとんどのヤクザが恐れをなして、大人しく帰っていくと聞いていた。
「昨日の沙紀様ですね。当店をお気に召してくださったようでうれしいです。どうぞ…」
ヘビの校章で有名な一橋大学出身の伊黒の記憶力は大したものだ。
一度聞いただけで、顧客の顔とフルネームが自然と刻み込まれる。
一流ホストクラブの凄腕の支配人がすぐに「沙紀様」と呼び掛けて来たことに、彼女は入店早々上機嫌だ。
沙紀は昨夜の目くるめく思い出を胸に、再びシャンデリアのもと、広い場内へと足を踏み入れる。
「!!!」
彼女の目には昨日とは全く違うものが映って来たのだ。
ホストたち全員の頭上に、キラキラと輝く、テニスボールぐらいの大きさの球体が浮かんでいるのが見える。
どのテーブルを見ても、主体となるホストの上には「金の玉」、ヘルプについているホストの上には「水晶の玉」が、それぞれ煌めいているのだった。
勘の良い沙紀には全てが瞬時に理解できた。
(性欲の強い男の上に金の玉、ノーマルな男の上に水晶の玉が載っているんだ……そして金の玉を持った男は、欲が強いだけあって、すぐにメインの担当に昇格していくんだ)
ふと、赤い髪の、顔が入れ墨だらけの男に目が留まる。
(あの友達営業の男も、真面目で禁欲的に見えるけど売れっ子だけあって、金の玉を持っている。あれはそうとう強力な性欲を理性で押し殺しているはず…)
その時、
「ちょっと、どいてくれんかのう」
すぐ横で、ホウキを持った若い男の子の声がした。清潔そうな真っ白い作業服を着ている。
「ご、ごめんねっ」
沙紀はその涼し気な笑顔の青年の頭上を見て驚く。
(この子一人だけ、「銀色の玉」を頭上に持っている……!!これはいったいどういうことなの?)
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(9)】
それから半年後…
晴れた休日の朝、東京タワーを望む瀟洒なタワーマンションのテラスで、無惨は新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。
「無惨様、エッグベネディクトです。ゆっくり召し上がってくださいね」
そっと家政婦の紫紅恵が出来立ての朝食をテーブルの上に置いた。
卵の黄身と特製ソースがほんわかとした湯気を放っている。そのそばにはアボカドと新鮮な野菜のサラダも。
「ありがとう」
無惨はぼんやりと遠くの富士山を望みながら、何故いつも紫紅恵の料理はこんなにも美味しいのだろうかと無心でほおばる。手作りのレモンドレッシングまで絶品だ。
(俺に結婚願望が湧かないのは、彼女以上の料理上手に出会えないとわかっているからだな…)
「では、私は今日はこれで」
紫紅恵はエプロンをさっと外す。
「今日は何かあるのか?」
「小学校のときの同窓会です。まあ毎月のことですから、出欠も取ってないのですけどね」
「そうか…残念だなあ…今日までの美術展があるから、お前と一緒に行ってやってもいいと思っていたんだがな…」
紫紅恵はその言い方がおかしくて、ふふっと微笑んだ。
「そうですか、じゃあ、同窓会は断ってご一緒しますよ」
紫紅恵とは七歳差なので、彼女のほうが少し年上ということになるだろうか。
しかしミス・ユニバース東京大会で優勝したこともあるその美貌は全く衰えない。
今も家族で応援に行った会場で、赤いガウンを羽織った紫紅恵の水着姿を見た時、目を合わせることができなかったことを無惨は思い出す。
いつも控えめなモノトーンのシャツにスカート姿であるが、人を惹きつける柔らかい優しさが彼女にはあった。
キッチンで洗い物を手早く済ませる紫紅恵のひきしまった腰のあたりを見ながら、
(出会ってからいつの間にか20年以上経ったな……でも俺の知る限り、一度も男はいなかったようだな。週末は教会と奉仕活動ばかりのはず。高齢処女と言ったらまだ失礼にあたるかな…)
想いを巡らせる。彼女との出会いはパリだった。
外交官の多忙な家庭に、通いのお手伝いさん兼遊び相手として来ていたのが、当時カトリック女子修道会の留学生だった紫紅恵だった。帰国し、無惨の両親が亡くなってからも、その雇用関係が続いているのだった。
「後ろを歩かずに、横を歩けよ」
並木道で薄いラベンダー色のペイズリーのシャツ姿の無惨は彼女にそう命じる。道行く人が無惨を見ながら芸能人だろうかと囁いている。
「坊ちゃまと並ぶなんて、そんなことはできませんよ」
「こら、坊ちゃまと呼ぶなと言っただろう」
くすくすと笑いながら、紫紅恵は幸せそうだ。無惨の胸のあたりに彼女のウエーブヘアが並んできて、すずらんのような香りが漂ってきた。
その時、後ろで、ガターン!!と大きな音がした。驚いて後ろを振り返ると、車椅子の老人がバランスを崩して転げ落ちている。後ろでアワアワと初老の男性が、落ちた荷物を慌ててかき集めている。
「ドン・ファン…いや、野咲さんじゃないですかっ。執事の方も」
無惨と紫紅恵は驚いて駆け寄った。ドン・ファンを抱え起こし、丁度通りかかった大型タクシーに乗せて、彼が宿泊しているホテルへと向かった。
「脈も呼吸も正常ですし、しばらくゆっくり横になれば良くなりますよ」
帝国ホテルのふかふかのベッドの上にドン・ファンを寝かせると、無惨は立ち上がった。
その時、彼はうつろに目を開けた。
「良かった…、意識が戻りましたね」
それと同時に異臭がたちこめた。彼は覚醒と共に失禁していたのだ。
「かぶれないうちに、早くシャワーを浴びせてあげましょう!!」
紫紅恵はさっとブラウスの袖をまくると、汚れたシーツを手早く丸め、他の皆が呆気に取られている間に、ドン・ファンを抱き起して浴室へと消えていった。
しばらくして、汗だくの彼女に支えられ、清潔なバスローブを羽織ったドン・ファンが出てきた。血色がよくなっている。
「ありがとう…お嬢さん…あなたは女神だ…」
女好きの本性が戻り、紫紅恵の両手を包み込んで強く握り、涙ぐんでいる。
「いやだ、そんなお世辞言えるなら元気ですね!」
深々とお辞儀する二人に、彼女は明るい笑顔を向けた。
「そうだ、奥様の沙紀さんは?」
無惨の問いに、執事は顔を曇らせる。
「あの女なら、朝から銀座に買い物に出て行きましたよ」
数時間後、帰宅した無惨と紫紅恵は、執事から御礼にと持たされたホテル売店の「ガルガンチュワサンドイッチ」をつまみながら、テラスに座ってワインを飲んだ。具材がホタテ貝やチキンなど豪華なサンドイッチだ。疲れていたからか甘口のものが飲みたくなり、無惨はワインクーラーから赤ワインのランブルスコを選んできた。夜空の星がまたたいている。そしてどこまでも美しい夜景が眼下に広がっている。
ふと横にいる紫紅恵を見ると、ほんのり頬を赤らめている。ワインをごくりと飲み込む横顔がセクシーだ。
「…紫紅恵」
「何ですか」
「お前、ドン・ファンの男性器を見たのか?」
「えっ!嫌だっ、いきなり何をおっしゃるんですかっ」
「医学的な見地から知っておきたいんだ。教えろ。大きかったか。長かったか」
「もう、坊ちゃまったら!」
「坊ちゃまと呼ぶな」
紫紅恵は顔を真っ赤にしてグラスを両手にもってうつむいている。
(いまいましいドン・ファン……清らかな紫紅恵が人生で初めて、見て、触った男のモノ……その持ち主があの色ボケ老人だなんて……)
無惨はじんわりとした怒りが腹の底からこみ上げてくるのを止められない。
「お前が触った時、あいつのあそこは大きくなったのか?答えろ」
なおも食い下がる無惨に、紫紅恵は笑いながら、
「いやだっ、苦しんでいる相手に、無我夢中でしたからっ。とにかく綺麗に洗って、拭いて、ドタバタだからろくに見ていないですよ……小さな頃の坊ちゃまのお世話をしていた時と同じ気持ちですよっ!!」
そこまで言ってまた顔を上気させた。
(そ、そうだ……俺も幼いころに粗相をしてしまったとき、今日のあいつのように紫紅恵にしてもらったことがあったな!!ということは、紫紅恵が初めて見て、触った男は……俺だ!!この俺だったんだア!!)
いきなり機嫌が良くなり、笑顔でワインを飲み干す無惨に、わけがわからないまま紫紅恵はおかわりを注いだ。
東京タワーはオレンジ色にあたたかい光を放ち、二人のいる空間を包み込むように優しく照らすのだった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(10)】
いつものように沙紀がお気に入りのイケメンホスト・冨岡義勇と対戦ゲームに夢中になっていると、ソファの上に放り投げていたスマホの着信音が鳴り始めた。しばらく無視していたが、鳴りやまないので面倒くさそうに出る。
「もしもしぃ~いま忙しいんだけど」
「沙紀様っ。こんな遅くまでどこにいらっしゃるんですか?さっきご主人様が路上で倒れました。今ホテルの部屋でようやくお休みになったところです。早急に帰ってきてくださいっ!」
とがめるような執事の声がうっとうしくて、無表情でガチャ切りする沙紀。
普段は話しかけられない限りは口を開かない冨岡が、珍しく横を向き彼女の目をまっすぐに見る。
「……聞こえてしまいました。ご主人様が急病とか」
「いいの、いいの!あんなジジイ、ほっとけばいいのよ、寝れば治るって!!」
瞬時に冨岡はすっと立ち上がり、ぐいっと左腕で沙紀を引っ張り、軽々と抱えて出口へと歩きだした。
「キャア、降ろして降ろしてっ」
と抵抗するが、彼のスリムな見た目から受ける印象と違い、屈強な腕力でかなわない。
観念した沙紀は、店の裏に停めてあった冨岡の黒い軽自動車に押し込まれると、帝国ホテルよ……と行先を告げた。
車窓には雨がかかり、ぼんやりとビルのネオンが反射する。
「せっかく楽しかったのに…いまからあの気持ち悪いジジイの下の世話か…あ~あ…」
「……沙紀様、色々と大変なことはわかりますが、ご病気でお辛いご主人様のことを悪く言うのはいかがなものでしょう」
ハンドルを握りながら冨岡が冷静にはっきりと言う。他人に興味の無い彼にしては珍しいことだった。
彼は運転が上手く、都会の渋滞の中を滑らかに走り抜けていく。幹線道路が混んでいたらさっと裏道に入るさまは、まるで都内の道が全て頭に入っているかのようだ。ごく普通の車なのにベンツに乗っている時と同じような心地よさがあり、沙紀はうっかり眠りそうになるのだった。
ホテルの部屋のドアを急いで開けると、そこにはイビキをかくドン・ファンと憔悴しきった初老の執事の姿があった。
「沙紀様…この方は」
「店のものです。布団、片付けますよ。ぐっすり寝ているうちに着替えさせましょう」
冨岡はテキパキと、自分の黒いスーツが汚れるのも気にせずドン・ファンの衣類を脱がせ、湯で濡らしたタオルで身体を拭き、優しく新しい毛布をかけた。
まるで赤ん坊を世話するかのように優しい笑顔で動く彼の横で、沙紀はふてくされて椅子の上にふんぞりかえっていた。
月末………いわゆるホストクラブの「締め日」。
閉店後、いつもであればホスト達はお気に入りの姫(客のこと)と過ごすために帰宅していくが、今夜だけは皆が場内に集結している。
今日は全員の売り上げ成績が発表され、ナンバーが入れ替わる日だ。皆が固唾をのんで伊黒支配人の手元の書類を眺めている。
緊張感がピークに達したその時、静まり返った空間に彼の声が響き渡った。
「今月の一位は、冨岡義勇。売上470万円。おめでとう。君が今日から当店のナンバーワンだ」
一歩前に出て静かにお辞儀をする冨岡に、皆が複雑な雰囲気でパラパラと拍手をする。好意的な表情の者は少なかった。
(先月まで最下位でソフトドリンクしか売る脳のない、皆のお荷物だった「ウーロン茶の冨岡」が……)
彼らの顔にはありありとそう書いてあった。
「支配人、異議があります」誰かが手を挙げた。
「この売上金は、ほとんどが近畿のドン・ファンの奥様から不当にせしめたものです。冨岡は枕営業をしています。他の店ならいざ知らず、東京一の「デーモン」ほどの高級店でこのようなことが許されるのでしょうか?」
冨岡が振り返り、えっ!?と目を見開く。そんな覚えは全く無かった。しかしその男はスマホを高く掲げて続ける。
「ここに証拠写真があります。沙紀様を抱えて店を出ていくところと、車に乗せるところ。そして………二人でホテルの部屋に入っていくところです!!」
「ちが……」
冨岡が叫ぶのと、猗窩座の拳が彼を吹き飛ばすのが同時だった。
驚いた古参のホストたちが一斉に止めに入る。
「やめろ!猗窩座、顔だけは駄目だぞ!ホストの命だ!」
しかし起き上がろうとする彼に、息をもつかせぬ速さで腹部に第二、第三のパンチをくらわせた。
「猗窩座、やめろっ!!」
煉獄がすかさず猗窩座を後ろから取り押さえる。他の誰も止められない中、さほど力を入れているようには見えない煉獄だけには勝てなかったらしく、動きを制止された彼は倒れている冨岡を物凄い目で睨みつける。
「前からよくわからない奴だと思っていたが、まさか旦那のいる女と寝てまで金を稼ぎたい男だったとはな!!俺は腐った汚れた奴は大嫌いだ!!」
肩で息をする猗窩座が黙りこくると、再び静寂が戻ってきた。
「まあ、まあ。我々の仕事は女性に夢を売る仕事だ。一歩外に出たらお客様の事情もさまざまで、真実は確かめようがない。今日のところは穏便に済ませよう」
伊黒が静かに諭した。じっと大きな目で冨岡を見下ろし口を開く。
「冨岡……男女の仲だけは善悪では裁けないからな。自分の心に無理をしなくてもいい。明日から沙紀様と“店ぐるみ”になってもいいんだぞ。皆で協力する」
「店ぐるみ……?な…何ですかそれは」
冨岡は床の上で腹部を押さえながら息も絶え絶えに問い返す。
「店内だけでお前と沙紀様を夫婦のように扱うことだ」
「ええっ!!それだけはやめてくださいっ!!好きでもないのに夫婦扱いなんか絶対に嫌だっ!!」
目を見開いて突然がばっと飛び起き、絶叫が響き渡った。
「ホテルだってご主人が急病だから送って行っただけですっ!!」
「では発表する。一位、冨岡。二位、猗窩座。三位、煉獄。煉獄は初めてのナンバー入りだ。おめでとう!」
五分後、皆も気を取り直して今度は盛大に拍手を送った。とりわけ皆からの信頼が厚い煉獄の名が読み上げられた時のそれは大きかった。
そんな中、部屋の隅で伊之助がつぶやく。
「なあ、矢琶羽……。誰か一人、忘れてないか?」
白衣の矢琶羽は大理石の壁をキュッキュッと磨きながら、無言でにっこりとほほ笑んだ。
そのころ、多摩川の河川敷。ホームレスが建てたボロボロの木造小屋が密集した一角に、ガタガタと震えながら焚火をする童磨の姿があった。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(11)】
「うう……寒い寒い」
冬でもないのに、広い河川敷には冷え切った風が駆け抜ける。コートと黒いネックウォーマー姿で木材に腰かけ、童磨はうつろな目で対岸の神奈川の夜景を眺めた。
「まさかこの俺が未収(ツケ)を許す相手を間違えて、数百万円も損害を出すだなんて…」
うなだれる童磨。突然脳裏に、伊黒の大きなオッドアイが思い出された。
「瀬礼舞画廊の奥様には気をつけろ。社長のカジノ中毒に絵画落札の失敗、良くない噂が最近多い。料金は毎回きっちり徴収だぞ」
公認会計士の資格を持つ伊黒は毎日、支配人室のPCで経済ニュースと株価の分析等を欠かさず、客たちの経済状況をチェックしている。何度も忠告を受けたのにそのたびに、
「もちろんです。わかっていますよ~」
と童磨は笑って聞き流し、彼女に高いボトルを入れさせてきたことが悔やまれるのだった……
瀬礼舞画廊破産が報じられた今朝は、奇しくもホストにとって最も重要な「締め日」の夜明けだった。
急いで自分の銀行口座から大金を引き出したが足りず、自宅のワンルームマンションを出て即日不動産屋に貸すことにした。四苦八苦した挙句、ようやく札束を作って夕方に「デーモン」に持っていき、「まだ体調が悪いので、しばらく休みます…」と力なく言うのが精一杯だったのである。
「ふう…せっかく股間の痛みがひいてきたのに…」
しんしんと冷える芝生の上でうずくまる。
その時、一瞬の閃光がピカーッと日吉から夜空へとまっすぐに貫いていくのが見えた。
同時に、さっきから目の前で争っていたヤンキー少年たちが「ドンッ!!」と爆発音と一緒に吹き飛ばされている。
「い、いてえッ!!」「覚えてろ!!」
口々に叫んで逃げて行った。後には中学生の少年が1人呆然として立っている。
「他の人たち、どうしたの?君は大丈夫なの?」
恐る恐る童磨は近づき、声をかけた。
「今、僕、塾の帰りにあいつらから恐喝されていたんです。取り囲まれて脅されていたら、いきなりドンっと衝撃がはしって、悪者は四方八方に飛ばされていきました」
(……!!シク子ちゃんとの夜、僕が受けた衝撃と同じだ!!そして、日吉方向の光……??)
翌日の夜。
「悪かった、冨岡。俺が良く事情を聞きもせずに。ドン・ファンのもとへ奥様を送り届けて介護の手助けまでしていたお前に対して、どう謝ればいいか」
「猗窩座、もういいんだ。説明不足の俺が悪かったよ。顔をあげてくれ。さあ、急いで食べよう」
二人の目の前には、モヤシと肉、ありとあらゆる具材が山盛りのラーメンがドンと置かれた。
日吉にある二郎系ラーメン屋「豚星。」
看板もなく、外からは単なるプレハブ小屋に見える。しかしここの味がやみつきになる者は多く、常に行列が後をたたない。
カウンターには、猗窩座と冨岡の他に、矢琶羽・サイステ・煉獄・伊之助・累がいた。無一郎も誘ったのだが、「僕はカフェ派だから」と断られたのだった。
「うまい!!うまい!!」とんでもない量のトッピングを、煉獄はガシガシと胃袋へと送り込んでいく。
「うう、話しながらでは食べられない。悪いが俺はまずは黙って食べることに集中するぞ」
冨岡が決死の表情で言う。
「僕…家庭料理に飢えていたから嬉しいよ…」と累。
「これは家庭料理か?エサに見える」と伊之助。
くちぐちに必死で食べ続ける皆を、笑顔で見つめる矢琶羽。
すぐ近くの慶王大学の学生である矢琶羽とサイステは、既に昼食を抜いて、今日の「豚星。」来訪の準備をしてきたので楽勝だ。
「急げ、急げ!!」
「ん?ところで何故、こんなに急いでいるのだ皆?」
早食いで、既にスープまで一滴も残らず飲み干した煉獄が不思議そうに尋ねる。
「そうか、さっき煉獄さん、どこか他のところを見てましたね。この店は、一列ごとに入れ替えなんです。つまり、カウンターで食べている7人全員が食べ終わるのを待ってから一斉に退店し、待っている7人と総入れ替えするルールの店なんです」
サイステが流暢に説明する。
驚いて店の外を見ると、飢えた獣のような男たちが長蛇の列。自分たちを「早く食い終われ、食い終われ」と呪いをかけるような目つきで睨んでいる。
「うっ……ぼ、ぼく…ちょっと無理かも…」
「仕方ない、累。気分を悪くしたらいけないから残せ」
そう。無理をしてラーメンを掻きこんだ結果、気分が悪くなり、店を出てから道端に嘔吐する者も出る始末なのだ。
「累、じゃあ、僕が食べようか?」
驚いて皆が振り返ると、そこにはマイ割り箸を握り締めた童磨が立っていた。
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(12)】
「はあ…飢えていたから助かったよ。ご馳走様でした」
さっきまで真っ白だった頬に赤みがさした童磨を囲み、皆で線路沿いに日吉駅への道を歩く。
サイステと矢琶羽の二人は、「明日一限目で早起きしなくちゃならないから」と自転車で帰っていった。
「童磨、顧客の倒産でホームレスになったのはわかったが、どうして離れた日吉のラーメン屋まで来たんだ?」
「ゆうべ多摩川の緑地にいたら、日吉からまっすぐ上空に光が飛び、それと同時に人が吹き飛ぶのを目撃したんだ。
どうしても気になって、数時間かけて歩いてきたんだよ」
皆が童磨の話を不思議に思いながら、広大な慶王大学日吉キャンパスの見える幹線道路を歩いた。
夜闇のなか日吉駅に着くと、一足先に帰ったはずの矢琶羽とサイステが見えた。ゆらゆらと「ぎんたま」に手をかざし、目を閉じてトランス状態になり、何かを念じている。
「おい、矢琶羽!」
皆で声をかけると、二人はビクっとしてこちらを向いた。
「む…ホストのくせに電車で帰るとは、ケチなメンバーじゃのう……」
「矢琶羽、今、「ぎんたま」と俺たちの波動が切れた。誰か銀製品を持っているな?」
サイステがきょろきょろと辺りを見回す。
すぐ近くを、これ見よがしに大きな銀製の腕時計をはめたイケメンが通り過ぎていった。
ボストンバッグに大きく紺色で「KEIO」とロゴが入っている。
「くっ、あんなに大きな銀製品…波動の邪魔をせんでくれんかのう」
「あ、あいつ、体育会。塾高からの知り合いだけど、いい奴だよ」
なおもブツブツ言い合う二人に、ホスト達は笑いながら近寄っていく。
「何だよ、思いっきり怪しくて目立ってるぞ。何してるのか教えろよ」
しかし二人は酔っぱらったふりをしながら、微笑んでゆらゆらと踊り続けるだけだった。皆もなんだか楽しい気持ちになり、そのまま盆踊りのように「ぎんたま」を囲んでしばらく踊ったのだった。
そのころ。沙紀はホストクラブ「デーモン」のすぐ近くに買った……正確にはドン・ファンに「買わせた」……マンションの一室で、バラの花びらを浮かべたバスタブに浸かっていた。
(やれやれ、ジジイをようやく羽田から和歌山まで送り帰すことに成功したけど、なんだか疲れちゃったなあ)
搭乗口で別れる時、ドン・ファンと執事が自分を複雑な目で睨んでいたが、そのようなことにひるむ沙紀ではなかった。
バスルームから出て、立派なドレッサーに向かい、高価なパックをしながらふと思う。
(一人になったし……また無惨様に会いたいなあ。そして抱いてもらいたいなあ。
あの時のアレは……ほんと良かったなあ……)
沙紀はスマホを取り出し、無惨に電話をかけた。
「何だ。沙紀さんか。何か用か」
「会って欲しいんです」
「言っただろう。俺は毎日忙しい。話し相手している暇は無いぞ」
「話さなくっていいです。速攻でHだけしたいの……」
バスローブ姿の沙紀は甘えた声を出す。
「結婚してから、ドン・ファンは高齢なのと脳梗塞の後遺症で、一度もできていなかったの。無惨様に抱いてもらって、私しばらくすごく機嫌良く過ごせた。やっぱり男性に抱いてもらって、女性ホルモンを安定させるって、大切よね……」
「そうか。じゃあ今から大人のオモチャを持ってそこに全裸待機しろ。俺が声だけでいかせてやるから」
「えーーっ。触れ合えないんじゃつまんない!」
「それにまだ「デーモン」で沙紀が遣った額は470万だぞ?俺に会いたかったらはやくあと30万円遣うんだな」
そのまま電話は切れた。
翌日。太陽が西に沈み、星がまたたきはじめるころ、東京一の高級ホストクラブ「デーモン」の夜が始まった。
「沙紀様、いらっしゃいませ」
いつものように冨岡と並んで赤いふかふかのソファに座る。
「今日は、何で遊びますか?スマブラとか桃太郎電鉄とか……」
話しかける彼の膝に、そっと沙紀は手をかける。男は目を丸くする。
「!?」
「冨岡、会いたかった……。いつもとは違うことして遊ぼうよ」
「!!??」
違和感を感じて目を見開いて驚いている冨岡に、言葉を続ける。
「ちょっと頭が痛い気がするから、化粧室まで付き添ってくれない?」
沙紀は短い付き合いの中で既に見抜いていた。
この鈍い男を思い通りに動かすには、「困ってる、助けて」と言うだけでいいということを……。
化粧室の前には大きな観葉植物の陰になるように革張りのソファが置かれていたので、沙紀はそこに腰をかける。ここなら誰にも聞かれまい。
「ありがとう……冨岡もそこに座ってよ」
「だいじょうぶですか」
心配そうに肩を抱きながら横に腰を下ろした。
「お願いがあるの、あなたに」
「何ですか?」
「今夜私を抱いて欲しいの。あなたのモノを私の身体に入れて欲しいのよ。お願いというか…まあ、これは命令ね」
(つづく)
【鬼たちのホストクラブ(13)】
沙紀から枕営業を命令された冨岡は驚いている…というより、あっけに取られているといった表情だ。
「なぜ、いきなりそんなことを言うんですか?俺たちずっと、ろくにしゃべりもせずに淡々とゲームしてただけでしたよね?」
「太客の私を抱くことができない理由って何。好きな人がいるの?」
「います。今もずっと一人の人が好きです」
「えっ、意外。どんな人なの?」
「優しくて、笑顔が可愛い人です。あと、勉強という意味じゃなくて、頭がいい」
顔を真っ赤にしてそう答えるのがやっとだった。
その運命の女性とは、とあるアニメの中のキャラクターである。
たまたま部屋で一人で深夜のテレビを見ていて、主人公の友達のキャラに心を奪われてしまったのが三年前。
目立たなくて控えめだが、仲間のピンチを笑顔でさりげなく助けたり、誰も見ていないところを掃除する彼女。
いつの間にか大好きになってしまった。その作品は、彼女が登場している話だけはセリフを覚えるほど見た。
定期的に秋葉原やコミケに通った。
期間限定カフェが作られた時には、彼には珍しく、美容室に行き新しい服を着て出かけた。
なぜならそれは「デート」だったのだから……。
彼女の名前が冠されたフルーツの紅茶が運ばれてきた時、ふと、向かいの席に「待った?」とその子が微笑んで座るような錯覚にとらわれた。
「そうなの……深くは聞かないけど、誰かを一途に好きなのね。ごめんなさい」
冨岡はすこし恥ずかしそうな表情をして、黙った。
突然、沙紀はがばっと顔を伏せた。
「うっうっ……」
「どうして?沙紀様、何か悲しいことでもあったんですか」
「わたし、身体がほんとうに淋しいの。疼くのよっ」
「それは……ご主人様もお年で、ご病気だから、大変なこともあるかと。わかりますよ」
女性の身体の悩みは全く想像がつかなかったが、泣き顔の悲しさを見て、非常に重大なことなのだろうと感じた彼は、優しく寄り添うように言った。
「誰か私を抱いて欲しい。うわあーーーん、あん、あん」
傍に綺麗に並べてバスケットに入れてあった、ふかふかのハンドタオルを差し出すと、沙紀はしばらく嗚咽した。
そのとき、そっと誰かの気配がした。
二人が驚いて見あげると、ばつが悪そうに、グッチのリュックを持った童磨がそこに立っている。
「すみません……お客様を見送った後、ロッカーに荷物を入れようとしていたら、たまたま聞こえてしまって。」
「いいのよ、別に。私はこういう話を聞かれて困る性格じゃないし」
目を真っ赤にした沙紀が涙声で答えた。遠慮がちに童磨が言う。
「良かったら、沙紀様、僕がお相手を務めさせていただきますが、いかがでしょうか……」
二人は顔を見合わせる。童磨は続けた。
「新人ホームレスなので、寝るところが無くて困っているんです。さっき僕の忘れ物を届けてくれたシク子さんに泊めてくれと頼んだのですが、話を信じてくれず、笑いながら帰宅されてしまいまして……」
「あっ…そこ…そこよ…」
沙紀の立派な天蓋つきのベッドの中で、童磨はベビードールのランジェリー姿の彼女の肩を揉みほぐした。
「ふふ、すごく凝ってますよ。セクハラかもしれないけど、女性は大人になると胸の重みで肩こりが激しくなりますからね」
優しく静かな声で童磨は囁いた。
「セクハラなんて…ここまできて、そんな言葉意味無いでしょ」
(沙紀様は背が高いからスリムな印象だったけど、上から見下ろすと胸の肉もきれいなおわん型だなあ)
童磨はぐいぐいと彼女の肩甲骨を揉んだ。
「じゃあ胸を揉んでよ。そのあとは分かってるわよね?」
沙紀様は小動物を睨みつけるかのように、しかし満足げに、頬を紅潮させて彼を見上げた。
ふと、童磨はあの夜のシク子とのことを思い出す。今まさに深い関係を結ぶという瞬間に、謎の日吉ビームによって股間に衝撃を与えられてしまったことを。
あの時は俺も絶好調だったというのに、惜しかった……。
「沙紀様。実は僕は多少股間を痛めておりまして…申し訳ないです。
でもご安心ください。このリュックの中に、ありとあらゆる道具を取り揃えておりますので」
と童磨はリュックの中を探る。…しかし、彼の武器を入れた巾着袋はどこにも無かった。
焦ったその時、スマホにLINEの着信通知が光った。
「童磨。今日は楽しかったよ。そうそう、あんたの忘れ物のリュックの中にあった巾着袋、落としたまま戻すの忘れてた。預かっとくね。今度ウチで使おうなんて思ってないからね~!シク子」
「何?彼女から?」
「僕の一番大切なお客さんです。誠実に毎回現金をちゃんと払ってくれる優しい子ですよ」
「へえ~。ま、それはどうでもいいけど、男のモノは怪我してる、大人のオモチャは忘れるって、一体どういうことなのよ」
「ははは。仕方ないから、人生相談に乗りながら、じっくりマッサージしますよ……」
童磨は沙紀の胸を揉みしだき、どこを触って欲しいのか、彼女の要望を聞くことにした。同時に自分で自分に、頭の片隅で疑問が渦巻いている。
(なんで俺、今日はムリだと沙紀様に言ってしまったんだろう?
もう股間は治療済んでるのに。まあいいか…)
(つづく)