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クロエ・エーリヒ・ヴィルヘルムは、自宅でアルマの作る料理を食べていた。 エーリヒ「兄ちゃん・姉ちゃん、このカレー旨いな。 アルマさんありがとう」 クロエ「アルマさんお忙しいのに本当にありがとうございます。 夕飯まで作ってくださって」 自らの料理を気に入ってもらった様で、アルマも笑みを浮かべる。 アルマ「良かったわ…クロエちゃん元気になって。 甘口だけど、ヴィル君も気に入ってくれたかしら」 ヴィルの方を見るアルマに、ヴィルは答えた。 ヴイル「果物の甘みも加わって、とても美味しいです。 俺もレシピ教わろうかな」 クロエ「お兄ちゃんが、料理なんて意外だわ。 私も教わろうかな。 アルベルトも気にいると思うし」 久しぶりの暖かい感覚に、クロエの心は落ち着きを取り戻しつつあった。
「え… …?!薬物反応…ですか?」 「はい。微量ではありましたが、今インターネット等を通して個人輸入や売買がなされている、抗精神系薬物の成分の一部が彼の胃の内容物から検出されたのです。 恐らく、アルベルト君が口にした食品にそれらが混入されていた可能性がありますね」 「禁止薬物を混入…ですか?」 アルマ夫人に子供達を託したのち、 医師からさらに詳細を聞く為にカンファレンスルームへ通された父ベルンハルトと母エーディトは、この不穏な事実を告げられて 不安が毒ガスの様に胸の中に広がって行くのを感じていた。 フランツ医師は続けた。 「アルベルト君はこの病院の系列の産院で誕生していますね。 今回彼が誕生した時からのカルテや病歴などを調べた結果、そうした治療薬を必要とする疾患の既往歴はない事が分かりました。 ご両親、何か心当たりはありますか?」 今日は自分達が留守の間に起きた事故である。 アルベルトが口にした菓子にどうやらそれらの薬物が混入されていた可能性があるらしいのだが、ベルンハルトもエーディトもその現場を目撃していない。 その時、そこにはクロエしか居なかった。 母エーディトはその事をフランツ医師に伝えた。 「そうですか。それならお嬢さんであるクロエさんにもお話を伺った方が良かったかも知れませんね。 ただ、それらは我々の属する医療機関が調査する環軸ではありません。 もしかしたらですが、警察の方から改めてお話があるかも知れません」 フランツ医師は矢継ぎ早にその事をベルンハルトとエーディトに伝えたが、2人は暫し困惑するしかなかった。 ーしかし、この事を要約すると… 禁止薬物を混ぜ込んだ手作りのお菓子を、我が家に届けた誰かが居たと言うことになる。 それを今日はたまたまアルベルトが口にしてしまったが、本当は誰を狙いこのような事がなされたのだろうか? 様々な疑惑が蜘蛛の糸のように頭の中で絡みつく。 一体何処から紐解いて行けば良いのだろう。 長男・ヴィルヘルムの晴れの日が、一転して真っ暗な疑惑に包まれて行くのを父母は感じていた。 (編集済)
【ノヴァク家】 食事を終え、クロエは食器を洗い、隣で食器を拭くヴィルヘルム。 アルマはテーブルを拭きながら部屋をキョロキョロ見渡し、自分の用意したお菓子がどこにあるのか探っていた。 しかしリビングには置いていないようだ。 救急車が来るまでにクロエが片付けたのか? アルマ「ねえクロエちゃん、私がお祝いに用意したお菓子はどこかにしまったのかい?アルベルトがあんなことになったし、他のお菓子にもアレルギーの物が入ってないか確かめたいんだけど」 クロエ「あ、アルマさんには言ってませんでしたが、どうやらアルベルトはアレルギーで倒れたわけじゃないそうで。でも、そうですね。一応調べておいた方がいいかも。お菓子はここに・・・」 クロエが食器を拭く手を止めてお菓子がある場所に案内しようとすると、ヴィルヘルムが横から口を挟んだ。 ヴィルヘルム「あれはこれから警察が調べるそうだから、触らない方がいい。アルマさん、アレルギー食品が入っているかは僕らで調べますから大丈夫です」 アルマ「ちょっと待って。アレルギーじゃなかったの?それじゃアルベルトは何で」 ヴィルヘルム「それは僕らもまだ詳しくは知りませんが」 原因はアレルギーではなく、警察が調べるまで触るな。そう言われたらアルマにこれ以上介入する理由はない。 アルマは自分たちに非がないということなら構わないと言う様子で アルマ「そう、じゃあ私はこれで帰るとするわね。そろそろエーディトたちも帰ってくるでしょう。また何かあったらいつでも言ってね。それじゃ」 そう言ってそそくさとノヴァク家を後にした。 少しの沈黙の後、最初に口を開いたのはヴィルヘルムだった。 ヴィルヘルム「・・・クロエ、お菓子はどこにしまってあるんだい?」 (編集済)
兄・ヴィルヘルムのいつもとは違う少しトーンに、クロエは若干違和感を感じつつも、彼をお菓子がある場所まで案内した。 クロエ「ここにお祝い用のお菓子をまとめておいたの、お兄ちゃんのファンの方達がくれたお菓子も。 あと常温以外・手作りのお菓子は、下のクーラーボックスにも入れて、小分けしておいたよ」 無数のお菓子の中には、ヴィルへのメッセージカードも添えられている。 ヴィル「思っていたより、数多いな。 なあ、こんな事を言うのあれだけど…アルベルトが食べたお菓子はどういうお菓子だっけ」 兄の質問に、クロエは答えた。 クロエ「チョコレートのお菓子だけど、それがどうかしたの」 ヴィル「いや…そうかありがとう。 場所も分かった事だし戻ろうか。 そろそろエーリヒも寝かしつけないといけないし、明日の警察のことも考えるとな」 そう言いつつ、ヴィルの表情は少し暗かった。 クロエ「お兄ちゃん、どうかしたの…さっきから元気ないけど」 心配するクロエに、ヴィルは返答した。 ヴィル「いやごめん…アレルギー以外で倒れったっていうのが気になってな… それに」 ヴィルは火傷した自分の手を見ていた… クロエ「お兄ちゃん…」 ヴィル「いや…何でもない。 俺は部屋に戻るから…お前も今日は早く寝た方がいいぞ」(編集済)
クロエ「うん、おやすみなさい兄さん」 クロエはそう言うと、ケトルに水を入れ火にかけ、戸棚の中からカモミールティーを取り出した。 コンロの火を見つめながらクロエは考えていた。 今回のことがハンナと関係あるのかはわからないけど、ハンナと話をしよう。 これ以上被害が起きませんように。 ケトルのお湯が沸いたと同時に玄関がガチャガチャと音を立て、ベルンハルトとエーディトが帰宅した。 2人とも憔悴した表情を浮かべている。
クロエ「お帰りなさい、寒かったでしょ? パパもママも、何か飲む」 クロエは両親の様子が気がかりではあったが、それを聴くことは止めた。 2人は軽く頷いた後、身支度を済ませて台所に移動した。 近くにはクロエが入れたカモミールティーが置かれている。 ベルンハルト「クロエ、アルマさんはもう帰ったのか」 珍しく、日頃寡黙な父がクロエに尋ねた。 クロエ「アルマさんなら、帰宅したよ。 アルベルトのことを心配していたし、何かあったらいつでも言ってって」 クロエは帰り際の状況を2人に伝えた。 エーディト「そう…じゃあ、改めて母さんからアルマさんに今日のお礼の電話をしておくわ。 あとクロエ、エーリヒはもう寝ているのかしら」 どこか暗い様子の2人。 クロエ「うん…寝ているけど」 病院で何かあったのだろうか…アルベルトの状態も気になり、クロエの表情にも不安が募っていた。 その表情を察した2人はクロエの方に視線を向け、ベルンハルトの方がクロエに告げた。 ベルンハルト「クロエ、アルベルトの方は大丈夫だ。 ただ今回の件で母さんと話をしたのだが…クロエ、明日は学校を休んでくれないか? エーリヒの登校後、今日の事・そしてこれからについてヴィルと共に話し合いをしたい。 もちろんお前達に取っては、辛いことを思い出す内容になるから、無理強いや強制はしない。 ただ私達…家族のこれからを考える為には、話し合いは必要だと思うんだ」(編集済)
次の日の学校 担任「今日はノヴァクさんはお家の都合でお休みです。では出席を取ります。」 ハンナ『家の都合・・・か。昨日あんなことがあったんだから来れないわよね。』 クロエが困っているであろう事を想像して笑いが込み上げてきそうだ。他人の目もあるから気をつけなきゃね。 ハンナが気分よく窓の外を眺めていると、ガラガラと教室のドアが少し開き、そこには教頭がいて担任を呼び出しコソコソ耳打ちした。 担任は静かにハンナの方を見て「ハンナ、お母様から連絡があって、すぐ帰ってきて欲しいそうよ。今日はもう帰りなさい」 あの女が?いったいなんなんだろう。 色々なパターンを想像しながらハンナが家に帰るとマグダは冷たい表情でこう言い放った。 マグダ「エマの病気が再発したわ。あなたの全てをエマに与えなさい」 目の前が、一瞬で真っ暗になった。
ハンナの中で、何かが切れた。 咄嗟に目の前にあった燭台を振り上げ、あの女の顔面目掛けてフルスイングした。 叫び声とともに、血飛沫が飛び散りその場にうずくまるあの女。 いい加減にしろ。 エマの病気が再発? そんなもん知るか。 助けたければ、お前の臓器を片っ端から与えてやれば? ハンナは燭台を窓ガラス目掛けて投げた。 派手な音を立てて窓ガラスが破壊される。 ガラスの破片を前に、顔面から血を流して呻いているマグダレナの様子を黙って一瞥した後、 ハンナはそのまま静かに家を後にした。 (編集済)
マグダ「逃がさないわよ。すぐに捕まえてみせる」 そういうとマグダはスマホを取り出しある人物に電話した。 マグダ「Dr.トク、ハンナに移植の話は伝えたわ。あいつ逃げ出したけど、貴方の力があれば捕まえられるわよね?外で騒ぎ出す前にさっさと捕まえて!」 Dr.トク「ええ、奥さん。全て私たちにお任せください。あなたはもうなんの心配もすることはありませんよ」 マグダはフンっと鼻を鳴らし電話を切った。
ハンナは家から出た後、人通りが少ない場所を歩いていた。 車道には引っ越し関係、廃品回収車などが走っている。 ハンナ「さて、これからどうしようかしら。 呻いてはいたけど、生きてる可能性は高いわね… それにしてもあの女の顔…整形でも直せそうにもなさそう」 現在の状況を考えるハンナの中には、母・マグダへの罪の意識は一切無かった。 だがその冷静さは、あくまで虚勢であり、内心は恐怖が芽生えつつあった。 ハンナ「私の行為が漏れる前に、どうにかしなきゃいけないわね…」 ハンナは唯一手元にある、自分の携帯を使って協力者を探していた。 最初にフランツ医師に連絡をしたが、携帯はつながらない。 ハンナ「手術中かしら? また改めてかけるとして、そうなるとあの男だけど… 父でもある、あの男はエマと私のどちらを選ぶのだろう」 考え込むハンナの視線の先に、一軒家と見たことのない車が目に入る。 車から、スーツ姿の若い女が下りてきた。 ハンナ「あの女… 通院時にいた看護師の1人よね…何でこの村にいるの」
スーツ姿の女はハンナを見つけると他の仲間に合図をしハンナのもとに走った。 ハンナ『え、何?私を追いかけてるの?なんなのよいったい!』 ハンナは本能的に危険を察知し、反対方向に走る。 ハンナ『なんで!なんでこうなるのよ!なんで私ばっかりがこんな目にあうのよ!私だって普通の家庭に生まれて普通に愛されたかった、なんで!なんで私は誰からも愛してもらえないの』 しばらく走るとスーツ姿の女たちを撒けたようだ。 ハンナ『寒い。お腹が空いた。足が痛い。でも、誰を頼ればいいんだろう。もう誰を信用していいのかわからない』
ハンナは走るのを辞め、歩道近くの木陰に身を潜めた。 ハンナ「息苦しい…あいつら…わざと追うのを辞めたのかしら… だって本来なら追いつくはずよね…相手は子供なんだから」 ハンナは追っていた集団を考えながら、ある人物を頭に思い浮かんでいた。 ハンナ「確かここから少し先になるけど…クロエの家があるのよね… 何で私…今、クロエのことを思い浮かんだんだろう…」 途方に暮れるハンナは戸惑いつつも、再び歩き出した。 ハンナ「フランツ・父にはlineも送ったけど、既読もされていない… そういえば…エマは今どうなっているのかしら… 追われてから…何か調子が狂ってきたわね…今の私」 いつになく弱気にして自問自答するハンナの視界に、クラスメイトの家が目に入る。 ハンナ「あれってクラスメイトの…お昼時だから母親はいるはずよね… 何か情けなくなってきた…でも今は身を隠すことを考えなきゃ…」
そこはクラスメイトのリオニの家だった。 周囲は暗くなってきて寒い、身体もクタクタ、お腹もすいた。しかしなんと助けを求めたらいいんだろう。 正直に人に追われていると言っても、あの女に連絡されるだけだ。 コンコンコン ハンナはリオニの家のドアをノックした。 リオニ母「あら、あなたはリオニのクラスメイトの・・・こんな時間にどうしたの?もう暗くなってきたというのに」 リオニ「あら、エスターライヒさん。何か用?」 リオニの声と表情は好意的とは言えない様子だった。 ハンナ「あの、実は家の鍵を無くしてしまって。父と母にはもう連絡したんですが、仕事が片付かなくてすぐには帰って来れないようで。どうしていいか途方に暮れてしまって。あの、少しの間だけでいいので休ませていただけないでしょうか」 リオニとリオニの母は顔を見合わせて少し困った表情を見せた。 リオニ母「それは大変だったわね。ご両親が迎えに来るまで少し休んでいったらいいわ。温かいスープで身体を温めて」 苦しい理由かと思ったが通用したんだろうか。2人はハンナを家に招き入れてくれた。
エスターライヒ家 ゲーハルト「・・・マグダ」 マグダ「・・・あなた。エマの病気が再発したの。移植をハンナに伝えたらこんな事に・・・」 ゲーハルトは無言でキッチンに向かい、ブランデーをグラスに移し一気に飲み干した。 ゲーハルト「そうか、ハンナもパニックになったんだろう。どうか許しておあげマグダ。ハンナは私たちの大事なエマを救ってくれる鍵なのだから」
マグダ「パニックね…だからと言って…こんなの屈辱以下の何物でもないわ」 マグダはゲーファルトのいる、台所の椅子に座る。 ゲーファルト「屈辱?それはって…マグダ、お前」 マグダの顔の傷に気づいたゲーファルトは、驚きのあまりブランデーのグラスを割ってしまう。 マグダ「やられたのよ…ハンナに燭台で Dr.トクが治療はしてくれたけど、手術をやっても傷は一生残るみたい。 もしあの時、ここにエマもいたらと考えると…本当に恐ろしいわね あの悪魔は」 血塗られた燭台を見ても、状況が信じられず呆然とするゲーファルト。 そんな彼とは対照的に、Dr.トクに貰った鎮痛剤を飲みつつ、マグダはハンナへの怒りをふつふつと昂らせていた。(編集済)
空上げして直しておきます
ゲーファルトはマグダの肩に手を置き耳元で囁いた。 ゲーファルト「マグダ、君のその美しい顔を傷つけられて怒っているんだね。でもね、心配しなくてもDr.トクに任せておけばすべてうまくいくさ。その顔もきっと綺麗に戻してくれるとも」 マグダ「Dr.トク、昔あなたの命を救ってくれた医師なのは聞いてるけど、本当に大丈夫なのかしら。もし私たちがしようとしていることが世間に知られたら、もうこの街にはいられないわよ。ねえ、Dr.にもう金は貰ったんでしょう?こんなちっぽけな街捨てて逃げましょうよ!エマもハンナもDr.にくれてやればいい!」 ゲーファルト「ああ、マグダ。君はなんてことを言うんだい。2人とも私たちの愛する娘じゃないか。捨てるわけにはいかないよ。だって私たちの娘はDr.トクの研究の第一号としてこの国の女神になるのだから。だからね、君はは女神を生み出した聖母マリアとしてこの街にいてくれなくては困るよ」 マグダはゾッとした。 ゲーファルトの異常性には随分前から気付いていたが、まさかここまでとは。 ゲーファルトの計画の中に私も組み込まれているということは、決して逃げる事ができないって事なのよ。(編集済)
マグダがこれまでにない恐怖を抱く中、ハンナはリオニの家で彼女の母が作るスープを飲んでいた。 ハンナ「おばさま、スープとても美味しいです。 本当にありがとうございます」 ハンナのこの言葉は本心ではない。 冷えた体で食べるスープはとても暖かく美味しい。 だけど…私の母であるマグダの作る料理には無い…この気持ちは何だろう リオニ「あのさぁ、エスターライヒさん」 今の気持ちを考え込むハンナに、リオニが声をかけてきた。 リオニ「私の部屋に移動しない? ご両親が戻って来るまで、ここじゃ退屈でしょ」 自分に声をかけてくるリオニに、ハンナは一瞬動揺した。 彼女からはあまり話しかけることは無いのに…
ハンナ「ええ、ありがとうリオニ。あなたのお部屋に招いてもらえるなんて嬉しいわ」 ハンナはナフキンで口を拭き、席を立ってリオニの後ろについて行った。 リオニはハンナの方を振り向く事なく、ゆっくりと階段を登り一番奥の部屋に入った。 ギィ・・・ガチャン! 部屋の中にはロイヤルブルーの絨毯、水色のベッド、真っ白な勉強机があり、リオニノ好きなものが集められたような部屋だった。 ハンナ「素敵なお部屋ね。羨ましいわ」 リオニ「あら、あなたの部屋には負けるでしょ。外交官と弁護士助手の家の娘ですもの、欲しいものはなんだって買ってもらえるんでしょうね」 ハンナ「ふふふ、そんなことないわよ」 リオニはジーッとハンナを上から下まで舐めるように見つめ行った。 リオニ「ねえ、あなたと先生ってどういう関係なの?あなたが先生の研究室によく出入りするのを見たのよ。何度か覗いたけどあの様子、ただの先生と生徒って雰囲気じゃなかったわ。ねえ、これが学校にバレたら大変だと思わない?」 ハンナはピクリとも表情を変えなかった。 ハンナ「なんのことかしら、先生には家庭のことで相談にのってもらっていただけよ」
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ハンナの反応を見て、リオニは少し拍子抜けした感じだった。 リオニ「そうか…あの先生、時々ぼぅーっとしていて何考えているか分からない部分はある。 だけど実は少しイケメンだし、隠れファンも多いから、もしかしてあなたも…と思ったけどね」 ハンナは男性教師の意外な評判に内面は少し苦笑しつつも、リオニに伝えた。 ハンナ「意外と頼りになる先生よ。 あとリオニ、これから私の事はハンナとか呼び捨てで構わないわ。 ほら、苗字のさん付けとかあなたって、何か他人行儀な感じがするから」 ハンナの返しに、リオニは少し驚きつつ、内心はこう考えていた。 リオニ「ハンナって、ママやエミリアが言っていた印象と少し違うな… だとすると、ハンナは詳しくは知らないのかな? ママが言っていた、クロエの来賓用のお菓子の詰め替えの件… そして、家のママと彼女のママであるマグダさんの関係性のこと」
リオニの母はよくマグダの愚痴をこぼしていた。 学校の仕事を引き受けない、町内会に参加しない、月に一度の街の清掃も一度も参加したことがない。しかもそれをご自慢の美貌を武器に男性教師や男性保護者に色目を使って逃げているのだから、面倒な仕事も真面目に引き受けているリオニの母は面白くなかった。 そんな愚痴を毎日のように聞かされていたリオニは、マグダの娘ハンナにも母と同じような感情を抱いていた。 その美しさを使って先生に贔屓してもらってるに違いないと。
リオニの方に顔を向けて、ハンナは語りだした。 ハンナ「私、最近成績が悪いのよね…お医者様を目指しているのに。 その事で、両親ともうまくいかないし」 どこか覇気のない表情と声で語る、ハンナ。 確かに、彼女の成績が落ちているのは事実だ。 ハンナはこれまで校内のテストでも、常に全体の上位でトップを獲得したこともある。 しかし最近は少しずつ下がり始め、最近受けたテストの結果は初の中盤の位置だった。 リオニは内面で混乱しつつもハンナの表情・語りから、これまでとは違う感情を彼女に抱き始める。 リオニ「ハンナ、大丈夫? そうだクロエに…あっ、今はアルベルト君の件があるから難しいよね」 リオニの問いかけに、ハンナはうっすらと涙ぐむ表情を見せる。 ハンナ「クロエ…彼女はもう私のこと、許してくれないわ… お母様はきっと間違えたと思うけど…でもアルベルト君が倒れたのはきっと… お母様のせいだから」
リオニ「ハンナ、もしそうならきちんと警察に説明しないと」 ハンナ「ええ、でも警察だってこの程度のこともう気がついているわよ。もし本当にお母様のお菓子のせいなら、とっくに捕まっているわ。捕まらないってことは、本当の原因はお母様じゃないって事なのかも」 リオニ「別の誰かがアルベルトの食べ物にアレルギー物質を入れたんだとしたら・・・」 リオニはアルベルト事件の解明に目をキラキラ輝かせていた。 もともと推理小説やドラマが好きな方だ。 推理小説の主人公になった気分で頭の中で登場人物を整理していた。 ハンナ『アルベルトの事件なんて知らないしどうでもいいわ。私はヴィルヘルムをちょっと脅してやっただけ。あいつが用意した爆発物がどれくらいの威力か確かめたかったからね。 あの女のベッドの下にもうガソリンと爆発物は設置した。睡眠薬入りのブランデーを飲んでベッドに入ったら起爆装置が作動して爆発するはず。極少量の爆発物だけど大量のガソリンに引火すればあの家ごと隠滅できる。 爆発物の近くにはクロエがうちに最後に遊びに来た日、落としていったボタンを置いておいたし、証拠としてうまく残ってくれるといいんだけど。 私はリオニの家にいてアリバイがあるし、エマは病院にいて安全、お父様は巻き添えになろうとどうでもいいわ。 あとは、協力者のあいつがクロエのアリバイを無くしてくれれば・・・』(編集済)
ハンナの内心でのある目的、それはリオニ・そして彼女の母親を味方につけることだった。 先ほどの涙に騙されたリオニ・私の母を嫌う彼女の母、この2人は自分が操作しなくても、自らの味方になる可能性は高い。 しかしハンナは現在のクロエの状況について、内心ある不安もあった。 ハンナ「クロエの今の状況が不明なのよね… 警察の捜査は終わっているはずなのに」 考え込むハンナ、それを心配そうに見るリオニは、あることを振り返っていた リオニ「クロエに言った、お母さんが言っていた話と同じだったな… ハンナって泣かないイメージが強かったから…実はお菓子の件は信じきれない部分もちょっとあったんだよね…」 お互い沈黙の中、リオニの携帯が鳴る。 リオニ「ごめん、エミリアからメールだ…えっ」 エミリアの携帯の内容にリオニは茫然としていた。 ハンナ「何かあったの…リオニ」 彼女の様子にハンナは問いかけた、それと同時に嫌な胸騒ぎを感じていた。 リオニ「ヴィルヘルムさんが、警察の車に乗ったのをアルマさんが見たって… どういう事」
ヴィルヘルムが連れて行かれた。おそらくあの爆発物の事だろう。 【パーティー数週間前の出来事】 ヴィルがやっているバイアスロンチームにはドーピング疑惑が噂されていた。 しかし、何度検査をしても異常が出なかったことから、次第にその噂は忘れ去られていた。 そんな事はすっかり忘れて、大会に向けてチーム一丸となって練習に励んでいる時、ヴィルのロッカー内にとある箱が届けられた。 その中には少量の粉と手紙が入っていた。 【その罪は誰が償う?】という一言だけが書かれた手紙。 怖くなったヴィルはその箱を自分のバッグの中に押し込み何事もなかったように振る舞った。 家に帰って箱を開けてみる。袋に入った少量の粉。これはなんだろう。少しだけ開けて匂いを嗅いでみると。 それは明らかに火薬だったことから、差出人がすぐにわかった。 【その罪は誰が償う?】 ヴィル「俺に、俺になにしろって言うんだよ。先生」 先生とは、ヴィルが信頼する科学教師のガブリエラ先生で、ヴィルは彼女に憧れてよく科学準備室で話をしていた。 たわいもない雑談から簡単な爆発物の作り方、そして少し大人の世界の入り口まで教えてくれた人だ。 ヴィル「先生、この爆薬でなにしろって言うんですか」
ガブリエラ「ノヴァク君…爆薬ってどういうことなの」 授業後の片づけ中に、突如現れたヴィルを見て、ガブリエラは驚いていた。 ヴィルと彼女はかつて恋人になりかけたが、ヴィルの立場を考えて、ガブリエラ自身が身を引いた。 それから2人だけで会話をするのは、ガブリエラが身を引いて以来であった。 ドアを閉めて、ヴィルは告げた。 ヴィル「いきなり、突然入ったことは謝ります。 ただ先生…こんな手紙を送る理由は何ですか」 ヴィルは彼女の前に、手紙と火薬の入っている箱を見せた。 ガブリエラ「これは…」 青ざめた表情を浮かべるガブリエラ、だがその様子はどこか怯えも強く見せていた。 ガブリエラの表情にヴィルは自分の想像とは違う、疑問が芽生えた。 そして…ガブリエラは一呼吸置いた後、ヴィルに告げた。 ガブリエラ「そうか…私だけじゃないのね」 ガブリエラは、ヴィルに贈られた物と同じ物を彼に見せた。 爆薬の入った袋・手紙…だが手紙の文面にはヴィルの方には無かった、文が追記されていた。 【その罪は誰が償う?…裏切り者】 ヴィル「先生…これって」 ヴィルはその内容に、茫然としていた。 ガブリエラは、ヴィルに向けて言葉を発しようとした。 だがドアを叩く音・ある人物の声で、それは遮断された。 女性教諭「ここにいたのね、ヴィルヘルム・ノヴァク君。 バイアスロンの監督から、貴方にお話があるそうよ。 でも、何で貴方は… ガブリエラ・ラインハルト先生の準備室にいるのかしら」(編集済)
ハンナ「・・・・・」 リオニ「ハンナ?ハンナどうしたの?」
ハンナはリオニへの呼びかけに応じず、黙ったままうつむいている状態だった。 だが、内心は違っていた。 ハンナ「アルマ夫人が目撃…今後の計画も変えなくてはならないのかしら… その場合はあの家に戻り、母の仕掛けも解除するしか」 黙々と葛藤しつつ、今後の作戦を考えるハンナ。 リオニはその心情には気づかず、落ち込んでいると思いハンナを元気づけようとしていた。 リオニ「きっと何かの間違いだよ、ヴィルヘルムさんの件なんて… 警察って結構間抜けだし」 推理小説の影響か分からないが、リオニは警察に対して一種の勘違いをしている様だ。 下の台所では、リオニの母親が彼女を呼んでいる。 リオニ「お母さん、何だろう? アルマさんが見た話なら、長くなりそうかも… ハンナ、ごめん部屋で待ってて」 リオニは母のいる方に向かい、ハンナは彼女が視界から消えるのを確認した。 ハンナ「警察を甘く見ているのかしら? 仲間としての頭脳はなさそうね…ただ母親の呼び出しは都合がいいわね」 ハンナは自分の携帯を取り出し、ある人物からメールが届いていた事に気づく。 [今後の計画、どうすればいいか…] メールの内容に対し、ハンナの苛立ちはどんどん増していった。
ハンナ『なんでどいつもこいつも使えないのよ。ここにだってずっといられるわけじゃないし、このままじゃ私が捕まるのは時間の問題だわ。一体どうしたら』 ハンナが苛立ちながら頭を抱えているとリオニが戻ってきた。 リオニ「たいした用じゃなかったわ。それよりハンナ!今回の事件に関して知ってることがあるなら教えて!私も解決のために推理してみるわ!もしかしたらハンナの力になれることもあるかもしれない!ねえ!」 リオニは名探偵気分をまだ味わいたいのか、ハンナにしつこく聞いてきたが、ハンナはそんなリオニを煩わしく思い、冷たく突き放した。 ハンナ「リオニ、あなたなんかにこの問題を解決することはできないわ。だってあなたの思考ってすごくりきたりで退屈なんだもの。これ以上あなたと意味のない話をして時間を無駄にしたくないのよ。あなたはせいぜいつまらない推理小説でも読んで探偵気分に浸っているのがお似合いよ」
これまでの自分が知っている姿とは全く違う、ハンナの言動に呆然としならも問いかけるリオニ。 リオニ「探偵気分か…でもそれはハンナやクロエを助けたい為で… いや、余計なお世話だったね…ハンナごめんなさい」 いつもの元気な姿とは違い、落ち込みうつむくリオニの姿。 ハンナはその姿を見てある人物が浮かび、そして「クロエを助けたい」という発言から、怒りは更に増していった。 ハンナ「本当に余計なお世話よ、部外者の癖に…あと謝らないでくれるかしら。 その謝罪する姿…以前家に来て、お母様に謝っている貴女の母親を思い出してね… とろい母とうるさい娘…性格は違っても、人を苛立たせる所は親子そっくりね… それにクロエを助けたいって、犯人かもしれない身内を何でかばうのかしら…探偵さん?」 ハンナは現状への苛立ちの発散として、リオニをあざ笑い見下し続けた。 そんなハンナの言動に、リオニはうつむくのを辞め、強い視線を向けた。 リオニ「私の事は何言っても構わない…だけど何でお母さんまで罵倒するの? あんたのお母さんに、私のお母さんがどれだけ傷ついたか知らない癖に… それにクロエにまで…ハンナ、友達なのに何でそんな酷い事が言えるの」 ハンナの一連の発言にリオニは静かに激高し、ハンナは驚きを隠せないでいた。 そして2人は気づいていない。 2人の為にお茶とお菓子を持ってきたリオニの母が、部屋のドアを境として2人の会話を知ってしまった事を。
リオニの母は唇を噛み手を震わせながらハンナをどうするか考えていた。 なんて醜い心の子、あの母親とそっくりだ。あんな子を家に入れ食事を振舞ったなんて・・・、いや、そんな事よりも娘を傷付ける言葉が一番許せない。 コンコンコン リオニ母「ハンナさん、お母様はまだ来られないのかしら。ずいぶん遅いようだけど」 ハンナはさっきまでの怪訝な顔をすぐに消し、にっこりと微笑み ハンナ「母はまだ来られないようなんです。迷惑をかけてしまってごめんなさい。おばさま」 リオニ母「・・・そう、困ったわね。実は急に親戚の家に行くことになったのよ。リオニも連れて行くわ。だからハンナさん、今日はもう自分で家まで帰ってもらえないかしら。(この寒い街をその薄着で凍えて帰るといいわ)」
リオニの母の様子の変化に、ハンナとリオニは共にさっきの話を聴かれたと察した。 ハンナ「あの…おばさま…両親と連絡してよろしいでしょうか? この時間なら出てくれると思いますし…あと母の知り合いの方にも頼んでみようと思います。」 [バレバレの嘘をついてまで、私を追い出したい様ね] ハンナは、リオニ母の言葉の節々に自分を追い出したいという想いが感じられていた。 リオニ母「そう…早く連絡が取れると良いわね。」 [知り合い?…さっきはそんなことなんて一言も言ってなかったのに。 でも、寒い中追い出すのは…流石にやりすぎよね] リオニ母の本心はハンナへの憎しみが強くなりつつも、不安がる娘の為に冷静さを取り戻そうとしていた。 2人のやり取りを見ているリオニは、怒りは収まらずとも母の変貌に驚いていた。 リオニ[お母さん…さっきの話聴こえてたよね…あとで謝ろう。 それにしてもハンナ、ヴィルヘルムさんのことを知ってからの… クロエに対しての変化って一体] リオニは母の想いを理解して冷静になりつつも、ハンナへの怒りと疑問が強くなっていた。 考え込むリオニの視界に、ハンナの携帯が目に入る。 ハンナの携帯は揺れ始めた。 画面から[G]と表示された差出人の着信と共に。
リオニ「ハンナ、携帯が鳴っているわよ。ご両親からじゃない?」 ハンナ「あら、お父様からだわ。リオニ、おばさまちょっと失礼します」 そう言ってハンナは廊下に出て電話をし始めた。 ゲーファルト「愛しいハンナ、家に帰ったらお前がいないのでびっくりしたよ。いったいどこにいるんだい?」 ハンナ『お母様から聞いていないの?どっちにしろここにはもういられないようだし、こいつを利用して街の外に逃げるしかないか』 ハンナ「今はリオニの家にいるの。お父様迎えにきてくれる?A公園の裏で落ち合いましょう」 そう言ってハンナは電話を切った。 ハンナ「リオニ、おばさま。ご迷惑をかけてごめんなさい。お父様がもう来てくれるそうだからもう行くわ。リオニ、酷いことを言ってごめんなさいね。私、ここ数日色んなことがあって本当に辛くて、でもだからといってあなたにあたってはダメよね。私本当に後悔してるの。リオニ、許してくれる?」 ハンナは目に涙を溜めてリオニに擦り寄った。 リオニは少し気味悪く感じたが、強気なハンナが自分に擦り寄ってくるのは悪い気がしなかった。 リオニ「いいのよハンナ、色々あったものね。また何かあったらいつでも話を聞くわ」 ハンナ「ありがとうリオニ。ではおばさま、失礼します」 そういってハンナは家を出てA公園へ向かった。
ハンナが家から去った瞬間、リオニと母親は同時に大きなため息をついた。 リオニ「お母さん…騒がしくしてごめんなさい…その部屋での会話…聞こえてたよね」 リオニは母の方に向かい、謝った。 リオニ母「ええ、でもあなたが謝ることは一切ないわ。 それにしても…親子揃って、平気で[ウソ泣き]をするのね」 母のこれまでとは違う吹っ切れた表情・そして[ウソ泣き]という発言に、リオニは少し驚きつつあった。 リオニ母「アルベルト君のお菓子の時、あの人… いいえマグダさんが、あの時「間違って入れてしまった、2回も慎重に確認したのにどうしよう」って。 来賓用のお菓子をノヴァクさんの方にも…でも、本当に間違って入れたのかしら」 リオニの推理好きの影響は、彼女の母親にも影響している。 学生時代は彼女の父親と共に、ミステリーサークルに所属していたほどだ。 リオニ「お母さん、それ警察に言おう…ハンナを裏切る形になるかもしれないけど」 リオニは母の覚悟に、自らも協力する決意を固めた。 リオニ[本当のことを言えば…正直ハンナをまだ信じていない部分もある。 エミリアの連絡がハンナには来なかった事、クロエへの対応の変化… そして彼女の母親はお菓子に…でも動機は何]
ハンナ『寒い、もうすぐ雪が降る季節なのね。私、こんな所で何をしているのかしら。本当なら優しい家族に囲まれて暖かい部屋で過ごしているはずだった。私の両親があんな2人じゃなく、クロエの両親のようだったら。あの家に生まれていたら私の人生は今頃違っていたんだろうな』 凍て付くような寒さの中を上着も着ずに歩き、謎の組織に見つからないよう隠れて歩き、ハンナの心は弱気になっていた。 ハンナ「何を弱気になってるの、私には大事な目的がある。ここで気を抜くわけにはいかないのよ。絶対にやり遂げなければ」 ハンナはそう言いながら携帯でとある人物にメールを送った。 ハンナ「これでよし。うまくやりなさいよ」 そう呟くと同時に待ち合わせ場所の公園に着いた。辺りは薄暗くあまり人が立ち寄らない廃れた公園だ。 ハンナは草むらに隠れてゲーファルトを待った。 どれくらい時間が経っただろう。 寒さのせいか待ってる時間がとても長く感じる。 ハンナ「早くきなさいよ。トロくさいわね」 ハァーと息で手を温めていると、横からガサガサと人が近づく音が聞こえ、やっとゲーファルトが来たのかと足音のする方を向くと、そこには優しく微笑むゲーファルトと黒ずくめの2人組が立っていた。 ハンナ「え、なぜこいつらがお父様と一緒に?」 ゲーファルト「ハンナ、私の愛しい娘よ。喜びなさい。お前はDr.の最初の実験体となり、この世界の女神になるのだよ」 2人組「さあ、ハンナさん。行きましょう。私たちの聖域へ」 そう言うと2人組はハンナを捕まえようと襲いかかった。 ハンナ『そんな!お父様が裏切るなんて!私の事をずっと愛しているといってたじゃない!!どう言う事なのよ!』 ハンナは2人組の隙間をかい潜り、残ってる力を全て振り絞り走った。 走って走って、走って走って走って、もう足が動かない、これ以上走れない、そう思って顔を上げると、目の前にあったのはクロエの家だった。 (編集済)
ハンナ「何で、ここに…」 ハンナは逃げ切った末に辿り着いた場所を見て、呆然としていた。 視線に入る窓から、クロエの姿が見える。 その表情は憔悴しきり、泣きはらしているようにも見えていた。 ハンナ「向こうからは見えてないようね…両親は不在なのかしら」 ハンナは観察しながらも、クロエの状況にある種の不安が芽生えていた。 視線に移る、クロエは台所にある包丁を見つめていた。 ハンナ「クロエ…」 ハンナは咄嗟に、クロエの家の玄関に向かおうとした。 だが、それは杞憂に終わった。 クロエは包丁から視線をそらし、テーブルの上にある2つのマグカップを運び、視界から消えた。 そしてハンナは自身の携帯に、先ほどの相手から返信が来ていたことに気づく。 ハンナ「そうか…あいつ…うまくいった見たいね。 でも…私…今…何で」 自らの感情と行動の整理ができず混乱する、ハンナの視界にはゲーファルト・黒ずくめの2人組がいた。 ゲーファルト「ハンナ、君の実験は段階を踏んで行われる…誤解をさせて、大変申し訳ない」 ゲーファルトは彼女の変化を察知し、彼女がまた逃げないように落ち着かせようとした。 ハンナ「そう…私の方こそ勘違いをして、ごめんなさいお父様。 ただ、一つお願いがあるんだけど…私、エマに会いたい」 ハンナの様子とお願いに、ゲーファルトは困惑しつつも承諾した。 ハンナ[あいつはうまくやっている…これで私の目的は隙さえあればいつでもできる。 これでいいんだ…これで]
ハンナ「バイバイ、クロエ。ごめんね」 窓に写るクロエの影を見つめながら、そう言ってハンナはゲーファルトと共に組織の車に乗り込んだ。 〜ノヴァク家〜 クロエ「あら?今誰かに呼ばれたような気がしたけど。外に誰かいるのかしら」 エミリア「そう?私には何も聞こえなかったけど。気のせいよ。それにしても、こんな時間にごめんねクロエ。数学の問題でどうしてもわからないところがあって。今期のテストも学年一位だったあなたならわかるかと思って来ちゃった。」 クロエ「ふふ。この問題私も苦労したわ。ちょっと意地悪な問題よね」 エミリア「クロエ、あなたの頭脳が羨ましい。クラブ活動や地域のボランティアもしてて、それでテストは毎回一位なんだもの。 私なんか部活もしないで勉強ばっかりしているのに、毎回あなたに負けてる。本当嫌になっちゃうわこの頭」 クロエ「ふふふ。私もテスト前はヒーヒー言って勉強してるわ。普段してない分大変よ。毎日怠けず勉強してるエミリアはすごいわよ」 エミリア「・・・・そう言えば、今日はご家族誰も帰ってこないのね」 クロエ「え、ええ。今家の中がちょっとごたついてて。エミリアも知ってるでしょ。最近色々あったから」 エミリアは少しニヤリとしながら エミリア「ええ、あったわね、色々」 『これからもっとすごい事が起きるのよクロエ。あなたが潰されていなくなればまた私が1番になれる』
エミリア[クロエ、お兄さんの件のこと…誰も知らないと思っているのかしら? アルマ夫人が騒ぎ立てるように、家に駆け込んで知った時は驚いたけど] エミリアはクロエの現状を考えつつも、あることを振り返っていた。 【エミリア、式典前の出来事】 エミリアは、小学校時代は常にトップクラスの成績だったが、中学受験は不合格となった。 中学ではハンナという存在・クロエの成長にも焦りを感じ、希望している進路も難しい状態となっていた。 エミリア母「ねぇ貴方、エミリアの受験についてなんだけど…この女子校は難しいわよね」 エミリア父「そうだな、それに最近の塾のテスト結果…AクラスからBクラスか」 進路・成績について話し合う2人の様子を、エミリアは玄関先から聴いていた。 エミリア父「エミリア、帰っていたのか…話したいことがあるのだが」 帰宅したエミリアに気づいた父は、彼女に語りかける。 エミリア「ごめんなさい、パパ…ヴィルヘルムさんの式典の準備が立て込んでいて。 しばらく、部屋で休んでもいいよね」 そう言って、エミリアは両親の顔を見ずに自室に向かった。 エミリア「全く、あの堅物サイボーグは本当に嫌になるわ…マジしんどい。 さて、今日はどんなネタがあるのかな~」 エミリアは携帯のSNSを見つつ、不敵な笑みを浮かべていた。
エミリア「あーあ、ダメだよ学校の先生がSNSなんかしちゃ。ちょっと調べればすぐ特定できちゃうんだからさ」 エミリアの趣味は周りの人のSNSを特定し、誰も知らない秘密を集めては、それをネタに匿名で相手を揺する事だった。 堅物の先生や優しい母親たちの裏にどんな顔が眠っているかを調べるのがたまらなく楽しかったのだ。 この日もいつものように街の写真や人の名前などから、いいネタはないかと夢中になって調べていた。 すると、面白いものを見つけた。 とある建設会社のホームページに、見覚えがある運動部の部室の写真が貼られていた。この会社が運動部の部室をリフォームした時に撮ったものらしい。 エミリア「ここって、この街の高校だわ。一度文化祭を見にいったことがある。へー、ボロボロだったバイアスロン部の部室をリフォームしたんだ。この高校じゃバイアスロンは何度も全国大会に出ていて有名だものね。」 パッと見た感じ、綺麗にリフォームされてるだけでそれほど面白いものはなさそうだったが、部室のロッカーに知っている人の名前があるのに気がついた。 エミリア「ヴィルヘルム・ノヴァク。これってクロエのお兄さんだわ。この高校のバイアスロン部だったんだ!興味ないから知らなかったわ」 知ってる名前を見つけ少し面白くなり、部室の中を隅から隅まで拡大して調べあげた。 奥には栄養ドリンクやサプリの棚が見える。可能な限り拡大してみると、そこには運動部にあってはならない薬品が置かれていた。 それはスポーツではドーピングになる違法薬物だった。 エミリア「これよ!これこれ!面白いわぁ、どうしてやろうかしら。バイアスロン部の知らない連中を脅してもつまらない。クロエのお兄さんを私のオモチャにしたいわぁ。ふふふ」 エミリアは恍惚の表情でパソコンで手紙を書き始めた。(編集済)
エミリアは脅迫状と並行して、ヴィルヘルムのアカウントを探し始めたが、ヴィル個人のは見つからなかった。 エミリア「本人はSNSをやってない…真面目君なのかね、流石クロエのお兄様。 さっきの写真を拡大して、所属チームの公式アカに拡散する手段もあるけど…特定されるかそれだと。」 不貞腐れながらも、今後の作戦を練り直すエミリアに対し、部屋の外から声が聴こえる。 エミリア母「エミリア、今日も部屋でご飯を食べるの? パパがあなたの塾の成績について、話したいと言っているけど」 母の声に、エミリアは面倒ながらも返事した。 エミリア「出来たら持ってきて下さい…あと、話はしたくないです」 エミリアの反応に、エミリアの母はキレた。 エミリア母「いい加減にしなさい、さっきからその態度は何なの? だいたい勉強もせずに、PCとか携帯で遊んでいる事はこっちも知っているのよ。 塾もAクラスとBクラスじゃ大きな差があるのに、パパはあなたを思って今後の進路の見直しとか」 母の説教に、エミリアは対抗した。 エミリア「黙って下さい…私は部屋でお菓子を食べるから、夕飯は持ってこなくていいです。 あと夕飯って、パパの会社で販売している苦いだけのケールジュースが付きますよね? あれ、飲みたくないので」 部屋に入ろうとする母を追い出し、エミリアは鍵をかけた。 エミリア「全く、あのヒステリックサイボーグが…世間体から[いい子ちゃん]を演じているけど…限界かな。 まぁ邪魔者はいなくなったし、バイアスロンの公式SNSを改めて…何、この投稿」 公式のタイムラインには【サジタリウスの女神】と名乗る人物による、ヴィルへの愛をつづったポエム?投稿が送られていた) エミリア「うわー…でも、こいつも面白そう… フォローしようかな、おもちゃとして」
エミリア(まさか私がやっている事をハンナに気づかれるなんてね。あの時は心臓が止まるかと思ったわ。けど、話を聞いてみたらハンナも似たようなものじゃない。面白そうだから計画に乗ってあげるわハンナ) クロエに勉強を教えてもらい、しばらく経った頃、街の遠くの方でサイレンが聞こえた。 クロエ「家事でもあったのかな。エミリア、最近は物騒だし1人で帰るのは危ないんじゃない?私が送っていってあげたいんだけど、ごめんなさい。なんだか今ものすごく眠いの。急に眠くなってきて・・・」 エミリアはクスッと笑い エミリア「いいのよクロエ。私は1人で帰れるわ。あなたはもうベッドで休んで」 そう言ってクロエをベッドに運ぶと、クロエは一瞬で眠りに落ちてしまった。 クロエが席を外した隙に睡眠薬を入れたのだ。 エミリア「ハンナからもらったこの睡眠薬、すごい効果ね。全然起きないわ。さて、私はこの家に私がいた痕跡を消して・・・」 ティーカップやテーブルについた自分の指紋を拭き取り、エミリアはクロエのベッドの下にマグダの髪の毛を落とし家を出た。 エミリア「おやすみクロエ。明日の朝が楽しみね」 バタン! 〜Dr.の研究施設〜 車でどれくらい走ったのだろう。ハンナは薄暗い森の中にある小さな施設の一室に閉じ込められていた。 部屋には鍵がかけられていて出られない。 ハンナは恐怖で震えながらも絶対に弱さは見せないという強い目で扉を睨み続けた。
ハンナが見つめている、扉の鍵が開かれた。 ハンナ「誰…」 ハンナは強い恐怖を隠しつつ、扉の方を見ていた。 フランツ「久しぶりだね、ハンナ。 機嫌が悪いのは…当然か」 ハンナは意外な来訪者に少し戸惑うも、フランツに接した。 ハンナ「先生…連絡も無視されたから逃げたと思ったわ。 それで、何でここにいるのかしら」 ハンナはフランツに対し、怒りを抑えつつも冷静に対応した。 フランツ「父から実験の医療チームの一人として、呼び出されたんだ。 ただ…君のSOSにも気づけなくて、本当に申し訳ないと思っている。」 フランツはハンナを真剣な眼差しで見つめつつも、どこか疲れた雰囲気を漂わせていた。 ハンナ「こっちがどんな状況だったのか、知らなかったのね。 それで貴方が来たのは、実験が始まるから」 内心は震えつつも、ハンナは弱音を見せなかった。 フランツ「実験は…まだだ。 ただ君に、妹のエマとの対話の時間が与えられた。 エマは…君に会いたいと懇願している」
ハンナ「エマに会うわ。私の最後の言葉を聞いてくれるのは、エマだけだと思うから」 フランツ「わかった。案内しよう」 そういうとフランツはハンナに手枷と目隠しを着け、部屋から出した。 ハンナのいた部屋から階段を降りたり登ったり、やっとついた場所は塔の上の小さな部屋だった。 ハンナ「なんでこんな所に。エマは病気なのよ、こんな所に連れてきて大丈夫なの?医療器具も何もないじゃない」 フランツ「安心しなさい。エマはきちんと医療部隊が管理している。もうそろそろ来るはずだ。その前に、君の検査が必要なんだ。」 フランツがそう言うと、部屋の中に白い防護服を着た人が何人も入ってきてハンナの身体をベッドに押さえつけた。 恐怖で暴れるハンナに鎮静剤の注射をすると、やがてハンナは眠りについた。 フランツ「大丈夫。機会をつけて脳波を測るだけさ。少しも痛くないからね。君の体は神聖でとっても大事なものなんだ、暴れて傷一つ付いたら大変。だから薬で静かにしていてもらうよ。身体は動かないけど頭ははっきりしているだろ?」 ハンナ「何をするの?私、殺されるの?」 フランツ「うんうん、話せるね。身体の筋力だけを麻痺させる薬がうまく効いてるな」 ハンナ『怖い怖い怖い怖い怖い!私だけがなんでこんな苦しみを受けなきゃいけないの‼︎私も普通に生きたかった!許せない!許せない!許せない!』 ハンナは舌をうまく動かし、右の奥歯に仕込んだ起爆スイッチを思い切り噛んだ。 19xx年 xx月xx日 エスターライヒ家ばハンナにより爆破され、家にいたマグダ・フォン・エスターライヒは死亡した。 ハンナ『ここじゃ爆発音も聞こえないわね。私うまくやれたのかな』
ハンナの状況を確認する、フランツ。 フランツ「ハンナ…君のことは仲間以上の存在だと思っていた。 だけど、誰だって自分の方が大切だろって…怒るなよ」 フランツがハンナを裏切ったのは研究の為だけではなく、自らの保身を優先した部分も大きい。 フランツ「あの事が知られたら、僕らの一家は終わる。 でもその前にこの研究が成功すればって…これはあの女が渡したのかハンナ」 フランツはハンナの口の中にある、起爆装置を取り外し、それを観察していた。 ?「フラン君こっちは終わったけど、ハンナちゃんは? それにしてもエマちゃんって、本当に可愛いわね。 私がプレゼントした、モカちゃん以外の新しい友達も喜んでくれて良かった。 あれ…フラン君、何で怒っているの」 黙り込むフランツの手元に持つ装置を見て、ガブリエラは理解した。 ガブリエラ「そうか…ハンナちゃんは起爆装置の点火を待つのではなく、予備の方を押したのね。 あんな母親なんて、彼女に取ってはいない方がいいわよね…ねぇヴィル」 そう言いながら、ヴィルの大会での写真を見て微笑むガブリエラ。 フランツ「相変わらずだな…妄想癖の強い、恋愛脳の女神(笑)。 どうせ起爆装置を渡したのは振られたヤケで、量も大したことないんだろ」 皮肉めいた感じで、ガブリエラに語るフランツ。 ガブリエラ「フラン君…あの起爆装置は結構威力はあるのよ。 あとこれは初めて伝えるんだけど、装置はもう一つあって…それはもう押されている。 エマちゃんにプレゼントした、おしゃべり機能付きのぬいぐるみの中のボタンの中にね。 エマちゃんはもちろん知らないけど… 先に起動装置を押したのは、母を憎む姉か・母を愛する妹か…フラン君はどっちだと思う? ハンナちゃん、これはヴィルを助けなかった事での女神様からのおしおきよ…クソガキ」 (編集済)
その言葉と同時にハンナの身体に薬品が投与され、眠りに落ちた。 〜翌朝〜 ピピピピピー 鳥の美しい鳴き声で目を覚ましたクロエ。 クロエ「そうだ、私昨日は急に眠くなっちゃって、どうやってベッドに行ったのかしら。頭がぼーっとして全然覚えてない。そうだ、たしかエミリアが来ていたような」 ベッドを出てリビングに行くとママとパパは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいた。 ママパパ「おはようクロエ。今日でお前も15歳だな。誕生日おめでとう」 今日は11月11日、私の誕生日。15歳になって、少し大人になった気分。 今日はママが私の大好物を沢山作ってくれるのよね、良い1日になるといいな。 そう思いながら紅茶に手を伸ばすと、玄関の呼び鈴が聞こえた。 いつもはこんな時間に客は来ないので、3人で顔を見合わせ不審に思いながらどなたか聞くと、警察だと答えた。 警察?兄さんのことで何かあったのかしら。 そう思い玄関のドアを開けると、警察は険しい顔でクロエに向かいこう告げた。 刑事は私を殺人の疑いで逮捕すると言った。 警察「クロエさん、あなたには事件の重要参考人として警察に来てもらいます。 私は目を疑った、何もしていないのに 母「あの、娘が何かしたんでしょうか?」 警察官「いやいや、きっと何かの間違いさ。少し話を聞くだけだよ。心配ない。さあ、行こうお嬢ちゃん」 そう言われ私は、警察官に手を引かれ家を出た。 警官は口調はあくまでも穏やかではあったが、その腕は瞬く間に私と家族を引き離し逡巡する隙すら与えられなかった。 ママ、私何処に連れて行かれるの? 怖いよ。 とてつもない不安が毒ガスのように私の心を一気に覆い、息をするのが苦しくなった。 警察官は後ろのクロエを見ながら、心の中で考え込む。 警察官「本当にこの子なのだろうか…外交官一家の母親の殺人事件に関わったのは…」
警察署内の部屋に案内されたクロエは、憂いな表情を浮かべつつ恐怖心が増していた。 クロエ「どういうことだろう…兄さんは…今どうしているのかな」 開いたドアから、2人組の男女が入ってきた。 ?「初めましてクロエ・ノヴァクさん、私の名前はジーニー・ウォルフ。 貴女には色々と聴きたいことがありますので、以後よろしくお願い致します。」 クロエの方に一礼する、紳士的な雰囲気で温和そうな雰囲気を漂わせる中年の男。 ?「えーとクロエちゃん?でいいのかな。 それにしても辛かったでしょう、でも話せば楽に」 クロエに何かを言おうとする女性を、ウォルフはクロエの見えない所で睨みつつ制止した。 ウォルフ「君、余計なことは言わないように。 クロエさん、私の部下が申し訳ない(この小娘にあの件はまだ早いだろ、まったくこの馬鹿女は)」 ?「すみませんウォルフ警部…でも私、まだ新人なんですよ(狂犬ウォルフ、今日おとなしいな)」 クロエは2人のやり取りよりも、ある事が気になっていた。 クロエ「あの…昨日家に来た、ゲオルグさんとブルーノさんは」 クロエの問いかけに、バツの悪そうな表情を浮かべる女性刑事。 一方でウォルフ警部は女性刑事が気になりつつも、表情を崩さずにクロエに告げた。 ウォルフ「クロエさん、不安になるのも無理もありませんよね…今、あの2人は」 ウォルフ警部が説明しようとした瞬間、女性刑事が喋りだした。 女性刑事「クロエちゃん、もしかして知っている人の方が緊張しないタイプ? でも重要参考人って大事だから、正直に話してね。 貴女とお兄さんが関わったと思われる式典での爆破、そしてマグダレナ・フォン・エスターライヒさんの殺人のこと。」 女性刑事の発言にウォルフ警部は心の中で激高し、クロエは茫然とした。(編集済)
クロエ「殺人って・・・殺されたんですか?マグダさんが」 クロエはそれを聞いた瞬間背筋がゾッとし、頭の中に浮かんだのは『ハンナがついにやってしまったのか』という事だった。 ハンナに母親のことを打ち明けられた日からずっと恐怖を感じていた。 いつかハンナはパンクしてしまうかもしれない、何か良くないことが起こるかもしれない。 そんな漠然とした恐怖に怯え寝込んだ日もあった。 ああ、ついにハンナはやってしまったの? クロエ「あ、でも。なんでその事で私が呼ばれたんですか?」 ウォルフ警部「おや?ずいぶん冷静ですね。普通子供がこんな話を聞いたら怖くて黙ってしまいそうなものなんですが。マグダさんの事件について何か思い当てる事でもあるんですか?」 クロエは何と答えていいか分からなかった。ハンナがやったなんて事は自分のただの想像でしかなかったから。 クロエ「いえ、そういうわけでは。ハンナは今どうしているんですか?マグダさんが亡くなってショックを受けているのでは?」 ウォルフ警部「ハンナさんとは仲が良かったそうですね。実はハンナさんと夫のゲーファルトさんは昨夜から行方不明なんです。何か知っている事はありますか?」