ありがとうございます!お言葉に甘えてさっそく投下させてください。
※幽霊話だけど怖くないです
①
最初にこの家を借りる時、不動産屋は「本当にここでよろしいですか?」と聞いた。「あの…ここは、あまり人が居つかなくて。女性お一人ではどうでしょうか…」と困り顔だった。築60年の木造一軒家、和室が二間。町の中心から外れているし、駅からも半端な距離だ。しかしなぜかシク子はその家が気に入った。古い物は好きだし、周りの雰囲気もしっくり来た。「ここにします」シク子は実にあっさりと賃貸契約をかわした。
引っ越して3日ほどたった夜だった。
風呂から上がって部屋に戻ると、隅に白い塊を見つけた。こんな所に布団袋を置きっぱなしにしただろうか。押入れに上げてしまおうと、白い布に手をかけた。ところが、手に布の感触が無い。
「ん?」何の気なしに、布団袋をひょいと覗き込んだ。
そこには、青白い男の顔が浮かんでいた。顔には、視点の定まらない二つの黒い目があった。
生き物の目ではない。その目がぎょろりとシク子を捉えた。
悲鳴になりきらない引き攣った声を上げ、シク子はその場に倒れた。
(編集済)
②
目を醒ますとシク子は布団にいた。たしか昨夜は…と、布団袋と男の顔を思い出してぞぞぞと全身が粟立った。いや、疲れていたから変な夢を見ただけだ。気を取り直してシク子は起き上がった。それから数日は何事もなく過ごし、引越しの片付けを淡々とこなしながら新しい生活を楽しんだ。
異変があったのは、ひどい雨の日だった。
梅雨がゲリラ豪雨を呼んだ夜、雷まで鳴り出して大層うるさかった。が、シク子は雷がけっこう好きだった。わざと部屋の明かりを落とし、縁側に座って障子を開けて、時折閃光の閃光を見ては独りではしゃいだ。
「おー!今のは紫だった。ハハハ」
「ははは」
すぐ横で声がした。ぎくりと体が固まる。今のは誰だ。ざざざっと全身に鳥肌が立った。
生唾を吞んでゆっくりと横を向く。男が座っていた。白い顔、黒い目。足は…足は透けていた。胡座をかくような格好の男は、下半身が暗がりに溶けるように消えていた。布団袋と思っていたのは、どうやら白い外套のようだ。やはり、生きている人間ではない。
シク子は今度は倒れなかったが、今にも叫びそうだった。しかし興味が勝った。がくがくと震えながらも、シク子は男の方に手を差し伸べてみた。幽霊の男がシク子の方を向き、伸びてきた手を嫌そうに避けた。シク子は思い切って訊いてみた。「あなた…誰?」
幽霊の口が動いた…ような気がした。通じてる…?しかし声は聴こえない。会話は成り立たないようだ。ふと思いついて、スマホの録音機能を立ち上げた。そしてもう一度「あなたは誰?お名前は?」と訊いた。今度は幽霊の口がはっきり動いた。慌てて再生して音を確認する。
「…ガタ……オガタ…ヒャクノスケ…」地の底から響くような、低い声が録音されていた。
続く
今日あとこれだけ貼らせてください。
③それから幽霊のオガタは昼夜問わず現れた。現れたというか、時々見えるというのが正しいかもしれない。最初は怖くて仕方なかった。夜にぼーっと廊下に立って庭を眺めてるのを目撃する度に腰を抜かしたし、寝ている時に顔を覗き込んでる気配がするのも怖かった。が、しばらくすると恐怖は感じなくなった。
見ていると幽霊というか、まるで猫のようなのだ。部屋をウロウロして、テレビがついてると裏側を覗いたり、シク子のご飯をくんくん嗅ぐようなしぐさをしたり。敷きっぱなしの布団の端っこで丸まっているのを見た時は、可愛くて思わず写真を撮った。もちろん、何も写らなかったが。
オガタもシク子に慣れたようで、時折シク子の顔を見ていて、目が合うと逸らした。話しかけると、通じてるのか分からないがオガタは黙って傍にいるようになった。
よく見ると、オガタはとても美しい顔をしていた。顎にある縫合痕のような傷すら、オガタの美しさを引き立てていた。生前は大層な美丈夫だったんだろう。はらりと額にかかる一筋の髪が妙に色っぽい。幽霊に惚れてどうする、と自分に若干引きながらも、シク子は幽霊のオガタのことがもうけっこう好きだった。
オガタのことを調べようとしたが、名前からは何も判明しなかった。どうやら明治陸軍の軍人らしいと服装から分かったが、そこまでだった。
そんなある日、町を歩いていたシク子は、往来にも関わらず大声をあげることになった。
「…オガタ!?」
道ですれ違った男3人連れ。その中に、オガタがいた。
④
いきなり大声を出したシク子に驚き、男達が立ち止まった。オガタの顔をした男も、目を見開いている。間違いなくオガタの顔だった。頬の傷まで一緒なのだ。オガタが生身の人間でいる。シク子は真っ青になって立ち尽くした。
「…知り合い?オガタちゃん」坊主頭の男が言う。オガタ。やはりオガタなのか。
「あの、お姉さん?顔色悪いけど…」顔に大きな傷のある、やけに顔のいい男が心配そうにする。
「…知り合い…じゃない。あんた、誰だ」オガタが困惑しきった顔をしている。
シク子はその場にへなへなと座り込んだ。
「あ、ちょっと!大丈夫ですか!?」
慌てた男たちは、シク子を抱えるようにして近くのカフェに避難させた(優しい)
混乱したままお互いに自己紹介をした。
「杉元佐一だ」
「白石由竹です!独身で彼女はいません。付き合ったら一途で情熱的です」
オガタの顔の男は「尾形百之助」と名乗った。やはりオガタだ。シク子は意を決して、男達にこれまでのことを話した。きっと頭のおかしい女だと思われる。でも、そうしないと「オガタ」と呼んだ説明がつかない。始終「は?」という表情を浮かべたままではあったが、ありがたいことに男3人はとりあえず黙って話を聞いてくれた。
「う~~~ん…尾形ちゃんの幽霊ねぇ…幽霊?」
「お前死んでたのかよ。ならさっさと成仏しろよ」
「俺の実家寺だから弔ってあげよっか?」
「あ、生霊か?お前陰湿だしな。こちらさんに迷惑かけてんのかよ、生霊やめろよ」
「…んなわけあるか。お前らアホか」
「しかもなんだよ、明治陸軍て。上官のいうこと絶対聞かなそう、お前」
「俺が知るわけねぇだろうが」
尾形の声は、録音された幽霊のオガタの声とよく似ていた。涙が出そうになって、シク子は顔を伏せた。
男達の冗談のような会話が続く。どうやら、信じてはくれなさそうだ。シク子が凹んだその時。
「よし!」
突然杉元が気合の入った声を出した。みんなが杉元を見る。「ここでこうしてても埒があかねぇ。見に行ってみようぜッ!」
パァンッと手で尾形の肩をはたいた。尾形は忌々しげに杉元を睨んだ。しかし次にシク子の方を向くと、やや表情を和らげた。
「とてもじゃないが信じられん話だ。…まぁ、でも、あんたは嘘はついてなさそうだ。…俺も見に行く」
そうして、一同は次の週末、シク子の家に集まることになった。
シク子は家に帰ると、今日の顛末をオガタに話して聞かせた。オガタは黙ってシク子を見ていた。
(編集済)
⑤
昼過ぎにシク子が最寄り駅に着くと、尾形、杉元、白石の3人は既に待っていた。白石は「見て見て、お線香でしょ、落雁でしょ、あと蝋燭と数珠」と袋を見せてシク子に渡した。友人かもしれない幽霊を成仏させる気満々である。杉元は律儀に菓子折りを携え「つまらないものだけど」と丁寧に言った。見かけは強面にも見えるのに、好青年っぷりにキュンとしたシク子だった。
尾形だけが何も言わず、表情は固かった。無理もない。自分の幽霊が出ると言われたうえ、会いに行こうとしているのだ。
家に着くと、シク子はカラカラと引き戸の玄関を開けて3人を中に促した。玄関には花を飾り、客用の新しいスリッパも用意してあった。
「どうぞ、上がってください」と3人を招き入れる。「おっ邪魔しま~す」後ろから白石の声がしたその直後。
「ぎゃぁああああああ!」
誰かの悲鳴が上がった。
玄関にいる4人のすぐ目の前に、幽霊のオガタがいた。いつもと様子が違うことに気づき、シク子は硬直した。ぞぞぞと背中に寒気が走る。オガタの黒い大きな目は虚ろだった。左目だけがギョロギョロと動いている。ぶつぶつ、ぶつぶつ。オガタが何か言っている。ぶつぶつ、ぶつ、ぶぶぶぶ。幽霊のオガタはいきなりグラグラと揺れ出して尾形に近づくと「はあ゛あ゛あ゛…」と低いため息とともに消えた。
「…い、今の…尾形だったよな?」杉元が乾いた声で呟いた。白石が杉元にしがみつきながら、うんうんと頷く。しばらく全員が身動きもせず固まっていた。
「おい杉元」
突然尾形が言った。みんなギョッとして尾形を見る。「白石も、こっちに来い」
尾形は案内もされないのにスタスタと部屋を横切り、縁側に出た。そのままガラス戸を開けて庭に降りた。
不思議に思いつつ、みんなあとに続いた。
「おい、何してんだよ」
尾形は端から端まで庭を見渡し、ある一点に目を止めると「ここを掘るぞ、一等卒」と言った。
(続く)(編集済)
⑥
何がなんだか、シク子はさっぱりだった。
一等卒と呼ばれた杉元は茫然としていたが、ハッとすると「指図してんじゃねぇよ、クソ尾形」と言って、庭に放置されていた板で土を掘り始めた。尾形は大きめの石で土を突く。白石が「え?お前ら何してんだよ」と声をかけたが、2人には届かないようだった。尾形と杉元は黙々と土を掘る。とうとう見兼ねて、シク子は裏口からスコップを持ってきて白石に渡した。雪かき用のプラスチックだが、土くらい掘れるだろう。「しょうがねぇなぁ…」と白石も穴掘りに加わった。
「…杉元、なんか、前にもこういうことあったか?」
「…いや、ねぇよ。ねぇけど…ああ、そういや、井戸の蓋を…」
「だまって掘れ。ここだ、ここで間違いないはずだ…」
うわごとのような会話をしながら、男達は土を掘り返す。その異様な光景に、シク子は身震いした。どう考えても埋まっているのは碌なものじゃないし、男達が何を話しているのかも分からない。でも邪魔をしてはいけない。なぜか強くそう思った。
「あっ!なんか出たぞ!」
汗まみれでドロドロになった杉元が声を上げた。「おお!早く、早く~!」白石が手で土を掻く。出てきたのは、土にまみれて錆だらけの箱。缶のようだった。
「ああ…」尾形が感嘆して立ち尽くした。
「開けるぞ…あ。油紙だ。…ん?これは…」
しゃがんで缶の中を見ていた杉元が眉根を寄せて険しい顔をした。下から尾形を睨みつけ、低く唸った。
「てめぇ…なんだよ、これ」
(続く)
ガルで最近の高校球児は髪の毛を坊主にせず普通に伸ばしてるトピがあって見てたんだけど。
何も疑わずに坊主にするのは杉元、宇佐美、月島(月島は顧問かな)
何が何でも坊主にはしない鯉登。常に手鏡で髪型チェック。日焼け止めも塗り倒す。
杉元「え?お前日焼け止め必要?」
鯉登「人を色黒だと思ってバカにしおって!日焼け止めは必須じゃ!」
1年生の時は坊主だったけど2年生から髪を伸ばしてツーブロにする尾形。
杉元「普通に校則違反じゃね?」
尾形「ふん、俺ぐらい成績も良くて部活にも貢献してれば誰にも文句言われねぇんだよ」
月島「おい!尾形、ツーブロは校則違反だから坊主にするか全部伸ばせッ試合に出させないぞ」
尾形「……スン」
全然関係ないけどマネージャーになって皆に濃い目のポカリ作ってあげたい(編集済)
⑦
「やはりここだった」
尾形が両手で顔を覆った。
「てめぇッ!生きてやがったのかよ!?なんなんだよ、これは!?」
杉元が尾形の胸倉を掴んでガクガクと揺らす。「あの列車で!てめぇはあそこで死んだろうが!なのに何でこんなとこに、てめぇのもんがあるんだよ!?おいッ!」
杉元の声はもう悲鳴に近い。尾形は「うぅ」と呻きながらされるがままになっていた。
「これ、尾形ちゃんの…?弾薬盒と…弾、こっちは…」
白石が缶の中身を取り出して見ている。
「…すすす杉元!おいこれ!」
杉元は尾形を放り出してまた缶に飛びついた。
「これ…頭巾ちゃんのスケッチ…か?おい、これは…?なんだこれ」
「あ…は、ははは。尾形ちゃん、これずっと持ってたの…?嘘だろ…」白石が泣き出した。「ず、頭痛のお守りなんだって。尾形ちゃん、熱出して頭痛いって…それでくれたの。キ…キロちゃ…が…ウィル…タの…」最後の方は言葉になっていない。小さな木の人形のようなものを手に載せ、白石はそれを見ながらボロボロと泣いていた。
「…捨てたくとも捨てられん…思い出したくなかった…見たくなかった…だから、埋めたんだ…」
顔を覆ったまま尾形が絞り出すように言った。
「馬鹿野郎が。今からでも殺してやりてぇ」
杉元が鬼の形相で恐ろしいことを言った。だけど、その声は悲痛だった。
⑧
「ここには昔、俺の店があった。銃砲店だ。俺は…生きていた。ロシア兵が俺を拾って生かした。あいつには世話になった。ロシアに一緒に来いと言われたが、俺は断ってここに銃砲店を開いた。…独りで…やり直そうと思ってな。ただ、目と頭をやられてたせいか、たまに発作のようなものが起きた。記憶とか感情が混乱する。だから…“あの頃”を思い出す物を遠ざけたかった…」
尾形が遠い過去を語る。杉元は鬼の形相のままではあったが、黙って尾形の話を聞いていた。白石は一度ぐすん、と鼻を鳴らした。
シク子は全然訳が分からなかったが、一つだけ理解していた。これは、前世の話なのだ。本当に前世はあるのか、以前なら怪しんだ。でも今は疑う気にはならない。みんな明治時代も知り合いだったこと、何かの戦いに身を投じ、尾形と杉元は仲間だったり敵だったりしたこと、尾形に語りがたい事情や苦悩があったらしいことは察しがついた。
「思い出したくもねぇ、見たくもねぇ、これは俺だ…」尾形が缶を撫でた。「だから埋めた。やり直すのに、今度は間違えないで済むように。だが…」
「……心残りだった…?」シク子がそっと訊いた。コクン、と尾形が頷いた。
「何か出来ることある…?」
尾形はしばらく無言だったが、やがて小さい声で「葬式…」と言った。
(続く)