〜シクトク昔話シリーズ〜
【場所取り地蔵】
むかーしってほどでもないちょっと昔
ある所に、青いビニールシートに座ると言う事だけを仕事にしている若くない男がおりました。
彼の仕事は「場所取り」。
お花見、コンサート、アイドルの握手会に新しいゲームの発売日など
行列にただひたすら並ぶだけの役割でした。
彼は待ち合わせに憧れていましたが
彼は誰かを待ち続けても、やってきた相手は彼に
「お役目ごくろうさん」
の言葉とともに、数個のどんぐりを渡すだけでした。
ある時、世界を新型コロナウイルスと言うモンスターが支配して
街から人びとが消え去りました。
お花見も、コンサートも、握手会もなくなり
物を買うのもオンラインが中心になりました。
彼の仕事も、モンスターの来襲とともになくなりました。
彼はビニールシートにくるまって、どんぐりを食べながら春を待つことにしました。
彼はいつしか土にかえり
彼がいた場所には花が咲きました。
その場所はいつしか待ち合わせのメッカとなり
いつしかお地蔵さんが登場し
人々はそれを
「場所取り地蔵」
と呼ぶようになりましたとさ。
お地蔵さんはたまに
「みんな!待ち合わせ場所はここだよー」
と、音痴な声で風に合わせて歌うという伝説があるそうです。
〜おしまい〜
[ なかよしのしるし ]②
『おい時間だ、里山まで行くぞ!』
仲間の鬼にそう声を掛けられ渋々と立ち上がる優しい鬼
歩を進める足はこん棒よりも重たく感じます
何の危害も加えない人間にどうして怖がらせるようなことをしなければならないのだろう…
『うおーーっ!』
人間がいたのでしょう
背を丸めトボトボと歩く鬼の前を行く仲間が雄叫び聞こえました
優しい鬼が顔を上げると田畑で農作業をしている人間たちが逃げまどう姿が見えます
優しい鬼も「ぅぉ-」、脅すふりをします
親とはぐれてしまったのでしょうか?
人間の子供が木陰に隠れているのが見え、優しい鬼は慌てます
周りにいる他の鬼たちは気付いていないようです
「ぅぉ-」
優しい鬼は子供が怖がらないよう身をかがめ、ゆっくりと近づきます(続く)
[ なかよしのしるし ]③
子供は目にいっぱい涙を浮かべブルブルと震えています
(あぁ怖がらせてごめんなさい、早く、どうか早く、仲間が気付く前に君は逃げて…)
祈るような気持ちで優しい鬼は子供のそばへ近寄っていきました
すると、どうしたことでしょう
子供は右手を差し出しこう言ったのです
『…こんにちは、おともだちになろう?』
驚いたのは優しい鬼の方でした
『あくしゅはなかよしのしるし、だよ』
ドサッ
膝から崩れ落ちる優しい鬼
他の鬼たちも様子がおかしいことに気付きます
『おい!どうした?』
仲間がワラワラと寄ってきます
優しい鬼は嗚咽を漏らしながら仲間に訴えました
「…おともだちになろうって…、こんな僕におともだちにって…握手したら仲良しだって…、もうやめようよ、…人間は、僕たちの住みかを荒らしたりしないよ!」
優しい鬼は膝を付いたまま小さく柔らかな子供の右手を両手で包み込みました
「ありがとう…、ありがと…」
こうして鬼たちは威嚇することをやめました
もしあなたが里山に行くことがあったなら、ぜひ子供が隠れていた木陰をそっとのぞいてみてください
朗らかな笑い声に包まれ、楽しそうに遊ぶ子供たちと優しい鬼をきっと目にすることができるでしょう(おしまい)