国立社会保障・人口問題研究所が2021年に実施した「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(※)によれば、
「いずれ結婚するつもり」と答えた人の割合は男性で81.4%、女性で84.3%。
いずれも過去最低だという。
「結婚するつもり」という答えの中にも、おそらく「する」という確信に近いものから「まあ、できればいいなと思っている」というくらいの薄い意志まで、
グラデーションが大きいだろう。
一生結婚するつもりはないと答えた人の割合は、2000年代以降、増加が続いており、
男性で17.3%、女性で14.6%と男女ともに過去最高。
結局、どちらの数値を見ても、20代から30代の男女の心が「結婚」から離れているのがよーくわかる。
恋愛にも結婚にも興味がないんです
そういうのは、ケメコさん(34歳)だ。
10代後半から20代半ばまでは、「人並みに」デートもしたし、恋人と半同棲したこともある。
だが、20代後半になって「実は自分が恋愛には興味がない」ことに気づいてしまったのだという。
「周りが恋愛しているから私もしなくちゃと思っていたし、誰かを好きになって結婚して家庭をもつのが当たり前だとも思っていた。
でも自分の気持ちをじっくり考えたら、あまり恋愛したいとも思っていないし、特定の誰かに恋愛感情をもつことも実はないんですよね」
ケメコさんは男女問わず友だちが多い。
学生時代からトランペットを吹いており、今も有志で吹奏楽の演奏をしている。
職場ではテニス好きを集めてサークル活動をしているし、写真部も作った。
「みんなで何かをやるのが好きなんです。だから週末も忙しくて。自分でも充実していると思っています」
デートする相手が出てきても、実際にはデートより「みんなで遊びたい」と思うことが多かったそうだ。
「ひとりの人とだけ時間を過ごすのがあまり好きじゃないというか。
そのうち、ああ、私は恋愛すること自体を必要としていないんだなと思うようになりました」
一般的には、「他者に性的欲求は抱かないが恋愛感情は抱くセクシュアリティ」はロマンティック・アセクシュアル、
「他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティ」はアロマンティックと呼ばれている。
ケメコさんの場合は、恋愛感情も性的欲求も抱いていないそうだ。
「みんなが恋愛や結婚をするから自分もしなければ」と思い込んで結婚していく人も、少数とはいえいるのではないだろうか。
こうやって「自分の本当の欲求」がわかるようになったのはいい時代だといえるのかもしれない。
「結婚」では将来への希望が持てない
結婚するつもりがないタエコさん(37歳)は、他者に恋愛感情も性的欲求も抱くが、結婚そのものに興味がないという。
「結婚は、自分の人生のオプションだと思うんです。
じゃあ、私の人生が何で成立しているかというと仕事と趣味と友だち。
自分の好きな生活ができて、趣味があって、話せる友だちがいればいい。
恋愛はときどきそこに入ってくる選択肢のひとつかな、と」
とはいえ、自分の人生に満足しているわけではない。
大学を卒業して入社した企業で、人間関係につまづいて3年で退職。
以来、3年近くアルバイト生活を強いられた。
「昼間は専門学校に通い、夜は水商売で働きました。
それで29歳のときに資格を生かして転職、ようやく正社員になれました。
その後は有休も消化しきれないほどのハードワークをこなしてきたと思います。
たまたま知り合った人とデートしたこともありますが、恋愛には発展しなかった。
私が常に仕事を優先させてきたからだと思います。
でも私、あのきつかったアルバイト生活には戻りたくない」
まずは経済的にしっかり生活していく。
それがタエコさんの「自分の人生」の基本だという。
結婚して子どもができたら、今の生活はしていけない。
「子どもはほしいと思うけど、どうしてもほしいというわけじゃない。
そうすると結婚する意味がわからないんですよね。
誰かと一緒に生きていきたいというより、ひとりで生きていきながら誰かとつながっていたい。
そのほうが強いんです」
誰かひとりとつきあったり結婚したりしてうまくいかなくなり、修羅場となるのは避けたい。
もっとふわりとつながっていければいい。
生きづらい世の中、そう考えている人が増えているのではないだろうか。
※「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
(2022年9月9日公表、国立社会保障・人口問題研究所)