シクトクマートは古びた小さな店だった。
女将は野菜コーナーでネギを見比べていた。
二人は声を掛けると詳細を話した。
女将「確か名前は園田徹。住所は新宿区だと思います。後は覚えてませんね」
敷徳「どんな人でした」
女将「寡黙でおとなしい性格でした」
熊野は部下に電話し、新宿区役所で住民票の確認をするように命じた。
三人は旅館に戻り夕飯の時間になった。
女将「ネギ塩チキンにございます」
熊野「変わった味ですなぁ」
女将「幻のシクトク鳥を捕まえましてね」
敷徳「まさか、あの時の!!」
すると熊野の携帯が鳴った。部下からだった。
熊野は笑顔で通話していたが、次第に険しくなった。電話を切り真剣な顔で話し始めた。
熊野「そんな人物は存在しないみたいだ」
女将「履歴書は嘘だったんですね」
敷徳「困ったな。八方塞がりだ」
敷徳は頭をムシャムシャ掻いた。
女将「そうだわ。気分転換に五輪を見ましょう」
女将はテレビをポチッと付けた。
ちょうどスキージャンプが行われており、応援席の原田の柔和な顔が映し出されていた。
熊野「変わらねぇなぁ、なぁ敷徳」
敷徳に同意を求めると熊野はギョッとした。
敷徳は原田の横に映る人物に鋭い目を向けていた。
その人物は園田徹(偽)に瓜二つであった!
熊野は警察の権限で原田に連絡を取った。
原田「警察の方が何でしょうか?」
熊野「今、貴方の横にいる男は誰だ?」
原田「分かりません。それなら変わりますよ」
謎の男「刑事さんが私に何のようですか?」
熊野「名前と職業を教えてほしい」
謎の男はゆっくりと話し始めた。
謎の男「井上二夫、スキー教室講師です」
熊野「ふむ、ずばり貴方は双子ですか?」
井上「はい。一夫という兄がいます」
熊野「そのお兄さんは何をしてますか?」
井上「この数年連絡を取ってません。兄は職も家も転々としてました」
原田「ふたお〜」
電話から原田の心配そうな声が聞き漏れてきた。
熊野は詳細を説明した。
井上「兄が死んだだと!シクトク村だと!」
熊野「落ち着いて下さい。解決には貴方の協力が不可欠です」
井上は原田に飴を貰い大人しくなった(๑´ڡ`๑)
原田「ふたお〜その飴は僕の手作りだよ~」
井上「お代わりしてもいいですかლ(´ڡ`ლ)」
熊野「・・・ゴクリ」
熊野「シクトク村に来れませんか?」
井上「もちろんです!兄の敵討ちです!」
原田「雅彦もいくぅ〜」
なんと原田まで村に来ることになった👀
井上二夫と原田がシクトク村に到着したのは、
丁度「シクトク祭」の真っ最中だった。
お祭りは出店がたくさん並んでいた
中でも目をひいたのは真っ赤なリンゴ飴・イチゴ飴だった。
お店の棚の端の方には飴をかける前の瑞々しいリンゴとイチゴが並んでいる。そのまま食べても美味しそうな位だ。
中央には艶々の飴をかけたリンゴがあった。
どれ、ひとつもらおうかなと店員さんに声をかけた。
その時
その時、二夫は小さいころの記憶が鮮やかによみがえった。
艶々の飴のかかった林檎を頬張る、自分。
いや、それは自分と同じ顔をした兄の一夫だった。
「シクトク林檎飴、おいしいね〜」
口の周りを真っ赤にした一夫が言った。
そう、二夫はシクトク村に来たことがあった!
「俺はここを知っている。何故だ?辺鄙な田舎に何用があって?」
シクトク林檎飴、この名前にも確かに聞き覚えがある…。ニ夫はハッとした
その頃、原田は村人にもみくちゃにされていた。シクトク村に有名人が来たのは初めての事だった。
そして音楽が聞こえて来た。
シックトック シックトック シックトック祭り〜(あっそーれ♪)
シックトック シックトック シックトック踊り〜(よいっしょ♪)
村人たちは血塗られの木の周りを反時計回りにぐるぐると回り、踊りはじめた。
熊野と敷徳は旅館の窓から祭りを見ていたが、二夫に気付き声をかけた。
熊野「二夫くーん」
二夫は二人に気付き旅館に向かった🚶
二夫は村に来た記憶があることを話した。
敷徳「家族の中に村の関係者がいる?」
二夫「いいえ。兄と私は施設で育ちました。家族はいません」
熊野「例えば、その施設の人が村の出身で遊びに連れてってもらったとか」
二夫「幼い頃なので覚えてません」
敷徳「その施設は今もあるの?」
二夫「私達が中学卒業して出てってから数年で潰れました」
熊野「名前は覚えとるかね」
二夫「シニガトニガ。変な名前でしょ😁」
敷徳「ハハハ、おかしいなぁ・・・・ん?」
シニガトニガ・・・死苦十苦!!!
敷徳「一夫さんは死苦十苦のメモを僕の事務所に持ち込んで死んだ。僕に見せたかったんだ」
熊野「二夫くん。施設の人の中に村の出身者が居るかもしれない。祭に参加してる村人の中に居るか探ってほしい」
二夫「よく観察してみます」
二夫は窓から村人たちをチェックしていった。
チェックしているとある事に気がついた。
踊っている村人の中に施設の館長に似た大柄な中年男性がいた。酔っているらしく千鳥足だった。
「シニガトニガ…シ、ク、ト、ク…か?」と
二夫は酔っ払いに向けて水をぶっかけた。
「誰じゃ!ちくしょー」
酔っ払いは顔を上げた。二夫はニヤついた。酔っ払いはみるみる青ざめていき酔いが醒めた。
二夫は酔っ払いの元へ駆け寄った。
二夫「館長、久しぶりですね」
館長「うっ」
二夫「虐待が発覚して潰れたんですってね」
館長「教育だ!身寄りのないお前達を育てた恩を忘れやがって」
二夫「僕じゃありませんよ。誰がマスコミにリークしたんですかね」
館長「出所者全員疑っとるわ。それで施設が潰れてもうて村に帰ってきたんじゃ」
二夫「実は兄が殺されましてね。死苦十苦のメモと村の写真を持ってました」
館長「ふん、俺を疑ってんのか」
二夫「もしリークしたのが兄だったらね」
館長「マスコミに匿名で手紙が届いたんじゃ。ワープロ打ちだから誰か分からん」
二夫「そっか。話は変わるけど僕らを幼い頃この村に連れてった事ある?」
館長「あるよ。よう覚えてたな。シクトク祭があるんで遠足がてらに連れてったよ」
二夫「僕ら以外の施設の子も連れてった?」
館長「うーん、どうだったかな。何故だろう、あの時の事を思い出そうとすると頭痛が」
二夫「とぼけても無駄だよ。こっちには名探偵が付いてるんだからね!」
館長「ふーん、迷探偵かもしれんぞ」
二夫は旅館に戻った。
旅館へ戻る道中。
二夫はどうも嫌な予感がした。
もしやあの時・・・。
記憶がだんだん蘇ってきた・・・
祭の最中カラオケ大会が開かれて、館長も参加した。館長は当時から酒乱ですでに千鳥足だった。転ばないように幼い僕らは必死に支えていたんだ。左は僕が右は一夫が、そして後ろは・・・そう、もう一人いたはずだ!
茜じゃ!
後ろは茜に任せておったのじゃ!
「あかね!茜はどのじゃーー「
二夫は館長の元へ引き返した。
二夫「茜だよ、茜。カラオケで3人で館長を支えたんだ!」
館長「うむむ」
館長「茜は・・・、もう村にはおらん」
二夫「当たり前だろ。茜は施設の子だよね」
館長「元々村の子だった。両親が死んで孤児になってな。俺が施設に入れたんだ」
二夫「施設で一緒に遊んだ記憶はないな」
館長「半年ほどで金持ちに引き取られ養子になった」
二夫「その金持ちは誰だ?」
館長「そこの原田さんのお父さん」
館長は村人と談笑してる原田を指さした。
原田「ん?なんだいお前さんたち、いきなり怖い顔でこっちを睨んできて」
二夫「原田さんが村まで着たのは理由があったんですね。茜の事ですか?」
原田は驚いた顔をしたが、やがて語りだした。
「あぁ、茜は僕の妹だ。ご存知の通り養子だがな。実は茜が数月前から行方不明になってな。茜の部屋を探るとこんなのが出てきたんだ」
原田は小さなメモを見せた。
「警察には言わないで。必ず戻ります。茜」
二夫は窓から見ていた熊野と敷徳を手招いた。
メモを注視する敷徳に熊野は言った。
熊野「何か分かったか?」
敷徳「一夫さんの持っていた死苦十苦のメモと筆跡が同じだ!」
原田「茜の書いた字で間違いないよぉ」
熊野「という事は両方とも茜さんが書いた!」
敷徳「茜さんが事件に関わってるのは間違いない。茜さん一家について村人に聞き込みをするべきだな」
熊野「手分けして出来るだけ多くの人にな」
二夫「僕も協力します」
原田「雅彦もする〜」
敷徳「情報が集まったら旅館の僕の部屋に集まってくれ」
4人は聞き込みを開始した。
やがて情報が集まり4人は旅館に集まった。
4人の情報を合わせると次のようなものだった
村人の話によると茜さんの両親の死因は自殺。それも血塗られた木で首を吊っていた。原因は心当たりが無いという。
敷徳「なぜ死んだかがポイントだな」
熊野「茜さんに聞くしかないな」
原田「手掛かりはもう無いよ〜」
二夫「必ず戻るとメモ残してるしなぁ」
4人は途方に暮れていた。
シュンシュンシュンピーーーーーー!
ヤカンの湯が沸く音で敷徳はハッとなった。
敷徳「ヤカン・・・そうだ!ヤカンだ!」
熊野「いきなりどうしたんですか敷徳さん」
敷徳「カップラーメン食べよ♫」
熊野は敷徳を殴打した。
敷徳「イテテ。冗談ですよ。一夫は茜の書いたメモを持ってたから二人は会ってます」
敷徳「ちょっと待って、ラーメンが伸びる」
敷徳はラーメンをペロリと平らげた😋
「もう少し館長に話を聞こう」
館長を旅館に呼び出した。
敷徳「茜に虐待をしましたか?」
館長「しとらん。同郷だから情が湧いてな」
熊野「茜に館長を恨む理由はない。シニガトニガは漢字で死苦十苦と書くんですか?」
館長「ああ。死は苦しい。十の苦しみが同時に襲う。だからこそ生きろと命名した。故郷のシクトク村にも引っ掛けとる😁」